そして電話のIP化は、インフラ面だけでなく、ビジネスの形自体も変えようとしている。例えば、Yahoo!は、3億人以上に上る膨大なユーザーをサポートする新たなシステムをIPをベースに構築した。同社は、「Yahoo!ブランドを3億人以上の顧客に認識してもらう」ことをコンセプトとして掲げる。そこで、顧客を「無料ユーザー」「プレミアム」「ハイバリュー」の3つのセグメントに分けた。
ポイントのひとつは、収益を生まない大量の無料ユーザーに対していかにサービスを提供するかにある。特に、Yahoo!メールのアカウント数は膨大だ。
また、Yahoo!にとっての広告クライアントが提供する製品を買っている顧客を「ハイバリュー顧客」と位置付けている。そして、こうしたユーザーをサポートするために、Yahoo!はインターネットメッセージング(IM)を用いたシステムを構築したのである。文字通り、IMを利用して顧客の要望に応えたり、クレーム処理を行ったりするものである。
また、現在のIMには通話機能が付いており、特定の状況では、この機能を利用して直接顧客とコンタクトセンターのエージェントが話をするといった導入形態も一般化しそうだ。そうなると、技術的な不具合がなければ、これまでの電話を機能面で超えてくる可能性がある。
これまで、IMを用いた顧客サポートシステムを構築した例はそれほど多くない。だが、膨大なユーザーをサポートする必要がある企業にとって、通話料が掛からない、インフラ技術としてシンプルである、リアルタイム性があるといった特長を持つIMは、従来の電話と比較しても大きな利点をもたらす可能性がある。
ここまで、ウェブ購買の市場規模が急速に膨らむ中で、コールセンターやカスタマーセンターは、企業の主要な窓口として今後ますます重要になってくると述べた。現在、コンタクトセンターはコストセンターと呼ばれることもあり、ストレスの大きいエージェント業務を担当する非正社員の離職率の高さが問題になっている。だが、将来的には、組織の中でのコンタクトセンター部門の位置付けがずっと高まっていくかもしれない。
一方で、コンタクトセンターの変革によって販売チャネルの形が変わることは、生産や調達部門の業務プロセスにも影響を及ぼす可能性がある。例えば、顧客のニーズに対応した生産体制を構築するために、一度に生産する単位であるロットを小さくしたり、ひとつの商品の寿命を短くしたりする必要が出てくるかもしれない。
インターネットがインフラとして普及して間もない現在、CRMが切り拓く可能性はまださまざまなところに埋まっていることは間違いない。今後「ビジネスモデル」が出尽くすまでの数年間は、どの規模の企業にとっても勝負の分かれ目になっていく。