同じ会社の人間が、セクハラとも言える出来事や個人所有物の破壊、個人プライバシーの侵害といった経験を内密の話としてあなたに打ち明け、会社には言わないでほしいと頼んだ場合、あなたならどういった対応をとるだろうか?
わたしはITチームのマネージャーを数年間務めており、これから説明することが起こった際にもマネージャーという職にあったものの、職務が変更されたために直属の部下を持たない身だった。ある時、わたしと同じ部門で働いていた女性が、わたしと2人だけで内密に話をしたいと言ってきた。彼女は、わたしが批判的になることなく話を聞く人物だという評判を耳にしていたためわたしを選んだのだと説明した。
彼女の話によれば、前夜1人残って遅くまで仕事をしていたところ、同じ部署で働く若い男性が彼女の席までやって来て、会話を始めようとしたという。この男性はその際に、彼女にとって屈辱的で、性的に不適切な言葉をいくつか投げかけたということだった。
彼女は最初、彼の言葉を単に聞き流すだけにしていたのだが、彼が彼女の机の上にあったオレンジを手に取り、それをボールのようにおもちゃにし始めたことで緊張が高まったのだという。彼女は彼に対して、オレンジを机の上に戻すよう丁寧に頼んだのだが、彼はその頼みを無視してオレンジで遊び続けたそうだ。彼女はオレンジを机の上に戻すよう主張し続け、しまいには強く要求したところ、彼はオレンジを彼女の机に叩き付け、オフィスから出ていったという。
マネージャーの対応
この女性社員が前夜の出来事について語り終えた後、わたしはまず彼女の申し立てがもっともだという意思表示で自分の返答を始めた。彼の発言が不適切であり、行動が脅迫的であったということについて彼女の言う通りだと同意した。また、彼は彼女の机に置いてあった物に手を伸ばすべきではなかったということについても同意した。
わたしは、そのときの状況をもっとよく理解しようと、彼女に「オレンジを机の上に戻すよう彼に言ったときのあなたの表情は普通、怒っている、微笑んでいるのうちどれだった?」と尋ねてみた。そして、他人を叱るときに罪悪感を感じる人もおり、場合によっては微笑むことで叱責の度合いを和らげようとすることもあると指摘した。
そしてわたしは自らの意見として、その男性のように従業員間の交流としての許容範囲がよくわかっていない人であれば誰でも、微笑みを自らの悪い行動が受け入れられた証であると誤解しやすいのではないかと説明した。
彼女は、自分が微笑んでしまったかもしれないと認めた。わたしは彼女に対して、表情やそぶりのすべてを自らの発言と常に一致させるよう努力してみたらとアドバイスした。そして最後に、前夜の出来事に関する彼女の説明を聞いた限りでは、わたしは彼女が何か悪いことをしたとは思わないと改めて伝えておいた。
彼のとった行動に対する彼女の怒りや悩みは当然だとわたしが断言しても、彼女の怒りは静まらなかった。彼と彼女のいずれに対しても責任をとる立場になかったわたしには、どのようにことを進めるべきかが不明瞭であったため、彼女をなぐさめ、今後そういった状況に陥った際の対応について現実的なアドバイスを行うことしかできなかった。
倫理的なジレンマ
わたしは彼女に、その苦情を彼女のマネージャーまたは人事部門に伝えてもらいたいか、もしくは問題の男性に直接働きかけてもらいたいかを尋ねてみた。彼女はまた同じことが起こるかどうか様子を見たいと言い、わたしのいずれの申し出も辞退した。そして彼女は、件の若い男性に関する苦情を正式に会社に伝えたくない理由として、彼女が白人であり彼がマイノリティであるため、それがこの出来事に対するマネジメントの受け止め方に何らかの影響を及ぼすと思っているということを特に挙げた。
その返答によって、わたしは非常に厄介な立場に立たされることになった。彼女の苦情に関してこのまま何もしなければ、わたしはマネジメント側に立つ身として会社を訴訟のリスクにさらすことになる。しかし、何かするとなると、彼女のわたしへの信頼を裏切ることになる上、彼女がわたしの報告内容をきちんと肯定しなかった場合、わたしは会社における自らの立場を危うくすることになってしまう。