「オープンソースって“タダ”なんでしょ?」の誤解を解く - (page 2)

米持幸寿(日本アイ・ビー・エム)

2006-12-01 16:42

 ソフトウェアには品質も重要です。長くソフトウェア開発を行ってきたベンダーには、品質を維持するための多くのノウハウがあります。こういった企業に何らかの対価を支払ってでも、品質の高いソフトウェアを入手したい、というユーザーの声もあります。オープンソースコミュニティでの開発にソフトウェアベンダーが自ら参加し、自社で品質を向上してからユーザーに有償で提供することができます。この有償ソフトウェアの売り上げを原資に、オープンソースコミュニティでの活動を続けることができます。

 より高い価値のソフトウェアを提供することも考えられるでしょう。ソフトウェアはスタック(階層)の構造を持ちますが、スタックの低い層の部分、つまり、より基本的な機能を提供する部分は徐々に価値が下がっていき、コモディティ化(一般化)していきます。そうなると、維持のコストばかりがかかり、上位の層(=価値の高いソフトウェア)への投資がしにくくなります。低い層からオープンソース化し、コミュニティでの共同開発を行うことによってコストを下げ、新しい、価値の高いソフトウェアの開発に投資を向けることによって、社会全体でのソフトウェアの価値を高めることができます。そして、その付加価値に高いソフトウェアを有償でユーザーに提供し、それを原資にオープンソースを維持することが可能となります。

 このようにオープンソースは、何らかの形でユーザーから得た対価が還元されることで維持されています。今日のように、高機能で高品質なソフトウェアがオープンソース化されてきた背景には、企業の関与があります。今や、ソフトウェアベンダーの存在なしに、OSSはありえないのです。

 つまり、OSSは決して「無料」ではありません。ソフトウェアへの対価の支払いかたが、「ライセンス契約」というものではなくなってきているにすぎません。

 ソフトウェアベンダーが自らオープンソースコミュニティの一部となって、品質や価値の高いソフトウェアを作り、共同で維持していく。このように、企業団体が寄り集まったコミュニティによってコードが開発、維持され、さまざまな形態で対価がコミュニティーに還元されていくようなモデルを形成しているのが現代のオープンソースの姿と言えます。

 コミュニティーに参加しているのはボランティアではなく、ユーザーから投資を受けた代理人としての開発者であり、そのコミュニティから直接、有償で、サポート、品質、高付加価値といったものを得られるようなオープンソースという経済構造が形成されているのです。

オープンソースの経済モデル 現在のオープンソースを取り巻く経済モデル。OSSを利用して有償の製品やサービスを提供する多くの企業が、自らコミュニティに参加し、利益を再投資することによって、高い品質を継続的に維持することが可能になっている。
筆者プロフィール:米持幸寿(Yukihisa, Yonemochi)

1987年に日本アイ・ビー・エム入社。メインフレームOS、ミドルウェアの障害対応、障害解析ソフトウェアの開発、ワークフローシステム開発、オブジェクト指向開発、Web開発など経験。2000年より、ソフトウェアのテクノロジーエバンジェリストとして活動中。この記事のトピックを、3分間で解説した動画が「ビデオチャンネル」で公開されています

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