ネットワークブートによるKINOPPIX導入
大分県 津久見市では、ネットワークブートによるKINOPPIXの導入実証が行われた。
すでにKINOPPIXの実証実験は、2004年に学校などで行われているが、その実証ではCD-ROMからのブートが行われていた。今回の津久見市では、同様にKINOPPIXを使用しているが、ネットワークブートという方式がとられている。
津久見市の場合では、市役所内にあるサーバから各端末を起動するだけではなく、出先間のPCもネットワーク経由で起動するように設計された。これは、大分県で高速ネットワークの整備が充実しているためだ。これにより「管理コストの低減」「データ漏洩の補強」などが実現できたという。
シンクライアント導入によるコスト削減の検証
浦添市ではこれまでもセキュリティ面でのメリットに注目して、シンクライアントの導入が検討されていた。また一方で、ソフトウェアのコスト削減のためにOSSにも注目しており、実証事例では、この2つの技術を組み合わせた技術が検討され、導入された。
ハードウェアにシンクライアントが用いられ、起動OSにはOpenSolarisが使用された今回の検証では、費用コストをWindowsと比較した場合、Windowsでは導入台数に比例してコストが上がっていくのに対し、シンクライアントのOSSデスクトップでは、台数が少ない場合はサーバの費用が上乗せされるためコスト面でのメリットは無いが、まとまった台数になればなるほど費用的な優位性が出る結果となった。
これは、OSSを導入する際には、ハードウェアやネットワークの構成を工夫することで経済的優位性を高めることができるという一例だ。特に今回の浦添市の場合、基幹システムからOSS環境で構築されたため、メリットが大きかったという。
また、浦添市では、もともと市役所職員が勤務の合間にヘルプデスクを担当していたが、その問い合わせ件数は人事の入れ替わりなどが激しい繁忙期の3月4月を除くと、約1カ月間でOSSデスクトップを導入する以前のレベルに落ち着いたという。今回の導入実証の成果をふまえ、市の独自予算で200台の追加導入が決定した。
導入の結果見えたこと
この4カ所での導入実証をふまえたIPAの見解は、大きく2点あるという。1点目は、自治体においてOSSデスクトップが使用に耐えうるということ。2点目としては、導入したOSSデスクトップの運用に、地元企業の活躍の場があるということだ。
特に2点目は大きな機会創出になるとIPAでは考えている。例えば札幌の実証実験では、地元IT企業がくみ上げたシステムが十分機能した。細かな機能の組み合わせで作り上げられるOSSでは、十分なサポートが不可欠で、今回の実証実験では結果的にではあるが、地元IT企業へのビジネスチャンスにつながったのは注目すべき点だとしている。
ただし、一方では問題点もかなりあるという。特に問題として橋本氏が例に挙げたのは、OSSデスクトップを使用するユーザーへの細かなサポート不足だ。自治体や役所などでOSSデスクトップを使用する場合、先鋭化したOpenOfficeの機能を詳しく説明する機会や仕掛けが必要だったという。
今回のような自治体での運用では、そのような要求が少なからずあり、通り一遍のサポートでは十分な運用ができない。1人1人の職員の需要にあわせたサポートや記録が必要で、IPAとしてはこれらを次の課題としている。
2007年度の導入実証について
2007年度に実施予定の導入実証については、公募が2006年夏に行われた。公募のテーマとしては、「OSSデスクトップの大規模な導入を施行して、導入への障害を解決する取り組みをする」「OSSデスクトップを運用するにあたって、発生した問題点を解決するための取り組みをする」という2点で、大分県庁、山形県庁、千葉県市川市、栃木県二宮市の4カ所で実験が行われることとなった。今回は、これまで通り自治体への導入ではあるが、県レベルでの事業という、さらに大きなプロジェクトとなっている。
二宮町では、継続的なOSS使用に伴う問題点の洗い出しと解決という、サポートを中心とした検証が行われる。山形県庁では、OSSの組み合わせで作られたSOA基盤を構築し、その上で文書管理システムを開発、運用する。大分県では、職員認証基盤、電子決済基盤、ファイル管理基盤などをOSSで構築する。市川市では、従来の施設運用システムをOSSで作り直す。
これら実証で特に重要としているのが、オープンスタンダードに準拠した設定を徹底させることで、最終的には他の自治体への導入も可能なシステムにしたい考えだ。
実証事例は成果報告書が作成されており、OSSの導入を検討している他の自治体でも活用できる。また、最終的にはIPAの提供するオープンソース情報データベース「OSS iPedia」に収録、出版も予定されており、随時IPAのサイトにて公開される予定だ。