ブラックボックスのソフトウェアを利用することで発生するリスク、とくに国家安全保障上のリスクを回避するために、ソースコードが公開されているOSSを活用するという大義があったはずだが、ここにきてむしろOSSの利用に政府の腰が引けているという。そうなると、あとは価格が安いことしかOSSのメリットが発揮できない。レガシーの黒い影に引きずられ、大手ハードウェアベンダーも政府も、態度が一貫しているとはいえないこの状況が、日本におけるOSS普及のひとつの障壁となっている。
OSSで優秀な技術者を育てられるか
また、ここ最近、日本においてIT技術者の空洞化が心配されている。少子化に加え、「厳しい、きつい、帰れない」という開発現場の3Kイメージもあり、新たにソフトウェアの開発分野に挑戦しようという若い人材は減少している。そして、中国やインドなどのオフショア開発の台頭もあり、このままでは数年後に日本にソフトウェア開発技術者がいなくなるのではという懸念も起きている。
日本OSS推進フォーラムでは、OSSを活用することで「独占の弊害の排除と選択肢の拡大」「技術革新の促進」「人材育成」を実現し、日本のIT産業の競争力強化を目的としている。これらはいずれも重要なことであるが、一般的なIT技術者の空洞化に対してOSSとして何か対策が打てないのか、と考えがちだが、桑原氏は「無理して先行する必要はない」と断言する。
「乱暴な言い方をすれば、放っておけばいい。人が足りなくなることで、価値があがる。価値が上がれば、また人は集まってくる。現にここ最近は、ソフトウェアの価格が上昇している。ソフトウェアの開発では、1人で10人ぶんの働きをするような優秀な人もいる。ところがそういう人でも、いまは1人がひとつの会社にしか雇われていない。これはある意味おかしい。こういったことは、変えていく必要があるかもしれない」(桑原氏)
さらに桑原氏は、もの作りの直接的な労働者を大勢日本で抱えるべき時代ではなくなったとも言う。今後は、技術者は限りなく知的なところに上っていかなければならない。コーディングをおこなうとか地道にバグをつぶしていくというのは大事な仕事ではあるが、いま日本に足りないのはそういったことよりも上位の部分を担う、本当に優秀な人材が足りないというのだ。
この部分の技術者を育てるには、ソフトウェアの理論や構造を教えるのではなく、もっと社会科学、人文科学の要素が必要だとのこと。総合力をもつ人材を育てる大学教育の改革は、早急に必要になると桑原氏は指摘する。
それでは、OSSはIT技術者の空洞化になんら役に立たないのかというとそんなことはない。OSSを使ってIT業界の3Kの状況を解消するツールを作るというのだ。