テーマは性能向上から信頼性確保へ
鈴木氏が指摘するように、当初のOSSの適用分野はネット系、ウェブ系のシステムに限られていた。それが一般企業の業務系システムへ拡大し、Linuxと商用ミドル、そして今は LinuxとOSSミドルという組み合わせまでOSSの世界が広がってきている。
同社がすでに発表しているように、旧UFJ銀行の勘定系システムは Linuxを基盤に構築されている。それが今後、さらにどう発展していくのか。
鈴木氏は、「まだ基幹系でOSSミドルを使うという段階ではないが、将来的にはそこまで行くでしょう」ということを確信している。 LinuxプラスOSSミドルがミッションクリティカルの分野でも使われるという見通しだ。
しかし、そこで問題になるのがOSSミドルの信頼性である。従来、OSSミドルについては性能向上が最大のテーマだった。しかし、これがここに来て変わってきた。国内のシステムベンダーや学識経験者で組織する日本OSS推進フォーラムの取り組みも微妙に変化している。
鈴木氏は同フォーラムのサーバ部会長も務めているが、2年ほど前は、性能をいかに向上するかというテーマが中心だったという。まず性能で追いついていなければ使えないということで、性能評価プロジェクトなどを行っていた。
しかし今、性能はかなり向上した。「たとえばPostgreSQLなどでは、以前は毎秒50トランザクションくらいだった処理性能が、CPUスケーラビリティの向上などもあり、この2年で毎秒500トランザクション〜700トランザクションと10倍以上に向上しています。そのため、現在はどうやって信頼性を上げていくか。さらに運用をどうするかという段階に移っています」と鈴木氏は話している。
OSSの普及の裏にはOSSそのものの進化があるのだ。
メインフレームの実績が生きる
こうした状況の中で、日立の取り組みも進化している。特に、日立の現在のOSS戦略を強力にサポートしているのが、2004年9月に自製サーバとして発表した統合サービスプラットフォーム「BladeSymphony」だ。BladeSymphonyのようなブレードサーバでは、ブレードの数が増えたときにOSのライセンス料が問題になるが、そこでLinuxの利点が生きる。BladeSymphonyはWindowsにも対応しているが、他のブレードサーバに比べてLinuxの対応率は高いという。
OSSビジネスでは、常にどこで差別化するかという課題が残るが、それに対し「BladeSymphonyを使うことでハードウェアプラットフォームからOS、そしてミドルウェアまで一体となってサポートできるようになりました」と鈴木氏がいうように、このサーバは日立の大きなアドバンテージとなっている。
また、OSSの開発については、日本OSS推進フォーラムをはじめとするさまざまなコミュニティ活動と合わせ、日立として独自の取り組みも進めている。
「私が所属する社内のOSSテクノロジセンタには60人ほどが働いていますが、その中でソースコードの改変までできるエンジニアが20人くらいいて、カーネルのパッチやトレーサー、ダンプなどRAS系のツールを開発しています」(鈴木氏)
ユーザーのシステムに何らかのトラブルが発生したときは、当然ベンダーとしては迅速に対応しなければならない。そこで、コミュニティ活動の一方で、社内でも開発エンジニアは必要だ。通常はコミュニティ活動に貢献しながら、いざというときには迅速に対応するという体制が求められる。