全員同時にゴールするのは難しい
20人21脚とパラレルな転送は似ている点が多い。20人21脚の第1の難しさは、より多くの足が息を合わせて同時に動かねばならないことだ。1人より8人、8人より16人のほうが難しい。第2の難しさは、それらの足をより速く動かすことだ。高速で歩調を合わせるのはさらに難しい。こうした難しさは、コンピュータの世界でも同じだ。
体育館で20人21脚競技をしている様子を想像してほしい。20人が足並みを揃えて走る足音は、音という感覚を超えてもはや騒音といっても良いかもしれない。コンピュータの世界でこの振動は信号ノイズとして現れる。一歩一歩を信号とすれば、掛け声「イチニ」はコンピュータにはさながら0、1と聞こえるであろう。0、1は電気信号のON/OFFに対応するが、同時にON/OFFする信号数が多ければ多いほどノイズが発生する。
例えば、冷蔵庫の冷却機や電子レンジのスイッチがON/OFFした時、白熱灯の明るさが一瞬パッパと変わった経験を持つ人は少なくない。急激な電流変化による電圧変動がノイズとなるのだ。コンピュータの中でも全く同じことが起こる。大量のスイッチを同時にON/OFFすると、これと共に発生する電圧変動が誤った信号を発生させ、その信号でコンピュータが誤動作する恐れがあるので問題は深刻だ。
信号用のケーブルは、厳密に言うと1本1本品質が若干異なる。これは、まっすぐな道もあればデコボコした道もあるのと似ている。16人が一斉に走り出したとしても、通る道の良し悪しで到着時間にばらつきが出る。これをスキューと呼んでいる。簡単に言うと、100m競争で選手が同時に出発してもゴール地点では横一線にはならないことと同じだ。
しかし、みんな一緒に到着してくれないとコンピュータは困るのだ。ほぼ同時に横一列でゴールするためには、速い人が遅い人に合わせてスピードをゆるめなくてはならない。20人21脚でも掛け声をかけながら、足並みそろえて並んで走らなければならないのである。
夢の超特急
もっと速く、もっと速く。要求はとまらない。そこで再びシリアルインターフェースの登場となる。技術の進歩とは不思議なもので、スピードの違う16人が息を合わせて苦労しつつ手荷物を運ぶより、縦に並んで1人ずつ出発して運ぶほうが早く楽に運べることに気がついたのだ。これは新幹線と同じだ。
こうすれば、集団の足音も横の人との歩調も気にしなくてよい。おまけに、電線の数を削減でき、コネクターさえも小さくできる。パラレルインターフェースの課題から開放されるだけでも気分がずっと楽になる。私はシリアルインターフェースがもっともっと普及することを願わずにはいられない。気楽に20人21脚をテレビで観られる日が早くきて欲しいものである。
第17回筆者紹介インターフェースのお話
藤原 忍(ふじはら しのぶ)
日本IBM 大和システム開発研究所 テープシステムズ開発 ソフトウェア開発エンジニア
テクニカルマスター、ストレージソフトウェア
職務:テープシステムズ・管理ソフトウエア・開発チームリード
一言:コンピュータの心臓部であるCPUの高速化に応じて、周辺装置であるストレージも高速化しました。コンピュータとストレージを繋ぐインターフェースの高速化も大きなテーマでした。沢山の信号線を束ねて一度に送る情報の量を増やすことが高速化の目標だった時代を経て、現在は1本の信号線での超高速データ転送が主流になっています。これは複数車線の道路から単車線の道路に乗り換えるようなものなので、ちょっと普段の感覚からすると不思議な話です。この不思議を皆さんに紹介するためにこのテーマを選びました。