使う側もいわゆるコンピュータやパソコンだけでなく、テレビはもとより、洗濯機や冷蔵庫、電子レンジもこのユーティリティストレージが活用できる。例えば電子レンジが新しいレシピを共用ストレージエリアから持ってきたり、冷蔵庫が商品に付けられた電子タグであるRFIDの情報を基に、入っているものをデータとして保管し、もう牛乳とヨーグルトはなくなりましたとリストアップしてくれたりするかもしれない。
ユーティリティストレージの世界では、ストレージの使用量を気にせず自由にジャブジャブ使えるが、これが進んでいくと社会的な反発も起こるだろう。今やエコの時代である。未来はもっとエコに厳しい社会であろう。地球に優しい家電製品は今でも人気があるので、もしかしたら節電型ならぬ節ストレージ型の冷蔵庫や電子レンジが注目を浴びるかもしれない。
小川は大河となって海に注ぐ
便利な生活、便利な世の中を求め続けることは人の世の常である。そのひとつの未来像がユーティリティストレージの世界だ。しかしこれを実現するためには、乗り越えなければならない課題点が多々ある。
例えば課金方法ひとつをとっても、今の電気やガスには「保管」というサービスが存在しない。電気やガスは単位時間あたりの流量を計測すれば済むが、データの場合、読み書きなど転送している時間以外に、保管している時間が重要になる。家族の写真や子供が小さいころのビデオ映像など、あまり頻繁に使わないが絶対なくしたくないようなものは、データの取り出し時間が少しくらい遅くても、料金が安い場所に保管できるといったサービスも欲しい。大切な思い出は安い料金で沢山保管したいからだ。
頻繁に使うデータは、先程の例とは逆に、できるだけ速く読んだり書いたりしたいので、近くに置きたいと希望するユーザーも多いだろう。そのため、例えばプロパンガスのボンベやマンションの給水塔のような一時的に保管できるストレージを近くに準備し、仮想化の仕組みで遠くの保管場所とデータを入れ替えできる技術も必要となるだあろう。
さらには、事故で消えたら悲しすぎる思い出をバックアップしてくれる仕組みやサービスも重要だし、供給会社が急に倒産してしまうことも問題だ。電力会社は倒産しないように国家が規制しているが、ユーティリティストレージを供給する会社も倒産しないようなしっかりとしたところであってほしい。
こう考えると、ユーティリティストレージの世界を実現するのもそれほど容易なことではない。しかし、ひとつひとつの技術革新は小さな1歩でも、地道に進んでいけば今日ご紹介した未来像よりもっとすばらしい世界が実現できるかもしれない。
ひとつひとつの小さな技術革新という名の小川は、やがて大きな河の流れとなり、最終的には未来という名の海に注ぎ込まれていくことになる。未来につながる小さな流れをささやかながら取り上げたのが、このコラム万川集海である。
最終回筆者紹介未来予想図
佐野 正和 (さの まさかず)
日本IBM システム・ストレージ事業部 製品企画
ICP コンサルティングITスペシャリスト
システムズ&テクノロジー・エバンジェリスト
職務:ストレージソリューションの推進
一言:コンピュータの世界は小さな技術革新の集大成の上に成り立っています。つまり今存在し、利用しているものは全て先人の努力の結果の上に成り立っているのです。未来について考えるとき、未来から見れば今は過去ということになります。未来の方たちに過去の存在である私たちが恥じない努力ができるよう、1日1日を精進し、コンピュータの世界をほんの少しでも前に進める仕事に参画できたらうれしいと思っています。もちろん、私1人だけでは何もできません。万川集海は、技術進歩という名の大きな石を、私と一緒になって前に押してくれるメンバーの賛同を得て出来上がったコラムです。このコラム集の中で皆様がひとつでも面白いと感じて頂けたものがありましたらうれしい限りです。お時間がありましたら、万川集海のバックナンバーも是非今一度ご覧ください。