「OSを知らない技術者は生き残れない」
日本において、LPICの認定技術者は確かに多い。とはいえ、手放しで喜んでばかりはいられない事情もあるようだ。
成井氏は「LPICの認定技術者は日本が一番です。しかし中国やインドには実際にLinuxを使っている技術者が多くいます。また、現在ウェブサーバは50%以上がLinux系であり、そこから類推すると相当の技術者が米国にもいることは間違いありません。Googleのサーバも全部Linuxですから……」と語る。
「認定技術者の数が圧倒的」といっても、それだけで日本のコンピュータ産業の前途を楽観的に見ることはできない。その点では、成井氏も現状を厳しく見ている。
「今のコンピュータ業界は、チップはインテルとAMD、OSはLinuxかWindows、UNIXという具合で、どこのコンピュータ会社も、サービスビジネスがメインになっています。そうすると、どのくらい“売れる技術者”を抱えているかがポイントになります。 Linuxが分かり、WindowsやUNIXとのインテグレーションができ、またデータベースでも商用のものだけでなく、OSSの製品も分かる技術者が必要になるわけです」(成井氏)
特にこれからは、OSSが分からなければ、IT技術者として市場価値すら消滅するのでないかというのが同氏の見方である。
「Linuxが分からなければ、アプリケーションレベルのことしか理解できないわけです。しかし、OSを本当に理解できていれば、アプリケーションをチューニングすることもできる。たとえば、外部で何か異常が発生した場合にOSに割り込みが入るようなシステムがあります。特にプロセスコントロール系では、それにシステム自体が迅速に対応できなければなりません。そうでなければ、プラントなどでは大きな事故につながる恐れもあります。こういうシステムを実現するためには、OS内部の知識が必須です」(成井氏)
OSの動きを知らなければ、それぞれの用途に特化してチューンアップされたアプリケーションは開発できない。逆に、OSの中身を理解していれば、商用OSに作りつけられた機能以上のことがで実現できる。これから、IT技術者として技術力を武器に生きていこうとするなら、Linuxのようにソースが公開されているOSの知識が必要という指摘だ。
無償の上に無限の可能性がある
「LPI-Japanはマクロ的に言うと、認定試験というものを通じて、日本でOSの教育を広めているのです」という成井氏の言葉が、LPI-Japanのこの7年の取り組みを端的に表現している。
こうした取り組みによって、教育機関もLPIC向けのカリキュラムを取り入れるようになってきた。現在、LPI-Japanは28団体37拠点の教育機関と連携し、「LPI-Japanアカデミック認定校」という制度を実施している。ここで、Linux講座を設け、また講師に対しても、登録制のインストラクターコミュニティを設けている。
「大上段にいえば」という断りをつけながらも「日本のITのレベルを少しでも上げることができればと思っています」と成井氏は言う。
そして、OSSの技術者に対しては、さらに積極的な「情報発信」をするよう訴える。
「OSSには世界中の人が貢献しています。そこでは、技術者は自ら情報発信しなければなりません。オープンソースの世界ですから、自ら積極的にあらゆるコミュニティや組織に首を突っ込むことが必要です。そして、Googleのように Linuxの上で新しいビジネスモデルを作り上げてもらいたいと思っています。Googleは無料の世界の上に有料のビジネスを作り、そこに大きな市場が出現しました。Linuxも同じです。Linuxの世界では豊富なリソースを無償で得られますが、そこに無限の可能性があります。無償のリソースの上にどのようなビジネスモデルを構築していくか。その手腕は、技術者にも求められているのです」(成井氏)