また、羽生氏からは、PostgreSQLに対応したERDツールの不足が指摘された。氏の「テーブルの継承など、PostgreSQLのオブジェクト指向機能を全開で扱えるような設計・データモデリングツールを作ってもらいたい」という意見には、Josh Berkus氏も大きな関心を持ったようだった。
石井氏は、今後の課題として特にEU圏を中心とした国際化の改善と、DTraceのような管理ツールへの対応強化、定量的な判断に基づくチューニングに向けた機能強化を挙げる。ソフトウェアのコモディティ化が進むことを睨み、PostgreSQLもよりユーザフレンドリーなシステムとして進化していく必要がある、と考えているようだ。
また、ディスカッションではPostgreSQLに関わるビジネス上の問題についても、様々な意見が交換された。現在、PostgreSQLのシェアはワールドワイドで拡大しつつあるようだが、日本国内での割合に比べると、やはり海外ではMySQLの方が多くのユーザを獲得している事実がある。これは、羽生氏や宗近氏が指摘するように、LAMPアプリケーションの構成要素としてMySQLが採用されてきたことが大きいだろう。こと、Movable TypeやWordPressのようなブログツールの人気が、MySQLのインストールベースを伸ばす大きな要因になっているのは間違いない。つまり、PostgreSQLの普及を進める上で、対応アプリケーションを増やすことが重要なのは、ほぼ自明なことと言えるだろう。
ただ、興味深かったのは、参加者やパネラーの間には「なんとしてもシェア拡大が必要」という危機感が全く見られなかったことだ。普及が進んだ場合のエンジニア不足や、技術者認定制度「PostgreSQL CE」の社会的認知など、参加者からも様々な問題点の指摘があったが、会場全体に流れる空気は「PostgreSQLのユーザであることへの自信」に満ちており、数年前のような「MySQLの後塵を」的な焦りは微塵も感じられなかった。そういった意味では、今回のパネルディスカッションは、PostgreSQL自体の成熟に加えてコミュニティの成熟も感じられ、今後の発展にさらに大きな期待がもてる内容であった。