ASP/SaaSは中小企業にこそ利用されるべき
日本は以前より、IT化の点で特に米国に対して大きく遅れをとっていると言われてきた。個々の企業、ひいては国全体がビジネスにおける競争力を増すにあたって、ITの活用が不可欠であるなどということは、今さら言うまでもない。
津田氏は、特に中小零細企業におけるIT化の遅延に危機感を募らせる。「米国と日本はIT化で毎年のように差が広がっている。日本企業の9割は従業員300人以下、2割は50人以下の企業だ。日本の選択すべき道は2つしかない。IT化の進まない中小零細企業を見捨てるか、あるいは積極的に支援を行ってIT化を進めるかのどちらかだ。日本は韓国と並んで、世界屈指のブロードバンド大国なのだから、もっとASP/SaaSモデルを活用してIT導入を進めるべきと、声を上げるべきだ」(津田氏)。
津田氏は、ASP/SaaSにおける導入の容易さ、便利さ、コストがどの程度なのかといった点などを具体的に伝え、実際の利用者となる人々に実感を持ってもらうことが必要だとする。
また、ASP/SaaSの利用を促進するためには「政府の動きを促進することも重要だ」と津田氏は主張する。企業がIT化を進めやすくするよう、税制面での優遇を行う情報基盤強化税制や中小企業投資促進税制がある。津田氏は「IT投資を促進するための税制はあるが、ハードやソフトの購入には適用されても、サービスにまでは効果がおよんでいないのが実情。サーバを買えない、あるいはITのリテラシも低いというような水準の中小企業は、事実上、このような税制のメリットを受けられれなくなってしまっている。実際には、このような層のIT化こそが最も必要とされているはず。将来的には、サービス導入の促進につながる対策が必要なのではないか」という。
啓蒙活動の一環として、ASPIC Japanでは「ASP・SaaS・ICTアウトソーシングアワード」を制定している。ASP/SaaS関連で優れた実績をあげた企業を顕彰し、社会に広報することで、この分野の産業を後押しするのが狙いだ。「ASP/SaaSの有効性を広く知らせるにあたり、アワードは発信力があった。優れたASP/SaaSはどのようなものなのか、ひとつの象徴となるような『フラッグシップ』が必要なのではないか。2006年は、セールスフォース・ドットコムがグランプリを獲得したが、2007年は総合、分野別と、あわせて20の賞を用意している」という。
普及・促進に必要なのは、技術の標準化と安心感
総務省は2007年4月、ASPIC Japanとともに「ASP・SaaS普及促進協議会」を設立した。ASP/SaaSは、中小企業の生産性向上に貢献することが期待されるものであるとして、同省と関係団体が連携し、各種指針、ガイドラインの策定などに取り組み、その普及促進を図ることが狙いだ。
ASP/SaaSの市場には、今後、参入企業の増加が予想される。ASPIC Japanの会員は現在100社を超えているが、それ以外にも、少しでもASP/SaaS的な事業に取り組んでいるところは800社程度あるという。今後、国内のソフトベンダーやISPなども含めて、合計で5000社ほどがASP/SaaS事業に着手する可能性があると、津田氏は見ている。
しかし、ASP/SaaSを産業として、さらに発展させるには、その土壌と環境の整備が求められる。「ASP/SaaSは社会基盤として考えなければならない」というのが津田氏の考えだ。そのためには、ソフトベンダー、ITベンダーが共同で、基盤となるデータ連携などの共通ルールを作るべきであり、このような課題に対処していくのが、「ASP・SaaS普及促進協議会」やASPIC Japanの役割であるという。
「政府とASPIC Japanが協力し、ASP/SaaSが使われやすくなる環境作りをしていきたい。サービスの安全性、信頼性確保や、用語の統一、また、事業者の認定制度も必要になるかもしれない。『お客さん』が安心してASP/SaaSを利用できるように、サービスをわかりやすく、目に見えるようにしなければならない」と津田氏は語る。
「もっとも、すべてのITがASP/SaaSとして提供されるべきだと考えているわけではない。一定の規模以上の企業は、自前でITをもった方がいい場合もある。基本的な考え方は『社会の情報基盤の改善』。ASP/SaaSを使うべきところに、使いやすい形で提供するという点が重要だ。ITにまつわる仕事は、コスト、従業員のリテラシ、セキュリティの観点から、状況に応じた最適化が必要だと考えている。現状、日本の企業は、アウトソースに消極的すぎるのではないか。もし、進みすぎたと思われたら、その時点で考え直しても良い。いずれにせよ、現時点でのASP/SaaS市場の規模は小さすぎるというのが実感だ」(津田氏)
日本におけるASP/SaaSの普及、促進のための活動はまだ緒に就いたばかりだ。