1976年の創業以来、30年連続で増収増益を達成しているSAS Institute。それは、「顧客と共にソリューションを作り上げているからだ」と話す同社CEOのJim Goodnight氏。Goodnight氏は、社員に対し「まだ製品化されていないものを売ることを恐れるな」と言うほど、顧客の声に応えたいという気持ちでソリューションを提供している。「顧客は自らの事業領域のエキスパートだ。そういったエキスパートが欲しいものこそ、本当にニーズのあるものだ」と同氏は述べる。Goodnight氏に、同社の方針について聞いた。
SASは大規模向けの製品ばかりかというと、そうではない。同社ではすでに中小規模企業向けにASPサービスも提供しているという。例えば分析したいデータがある場合、分析ソフトをそのまま購入するのではなく、SASにデータを送り、分析してもらうといった具合だ。Goodnight氏は、「中小規模企業には専任で分析を担当する人材を置く余裕がないことも多い。また、製品を購入するコストも抑えたいものだ。SASではこうした企業に向け、ほぼすべての機能をASPで提供する」と話す。今後もこのような中小規模企業向けのサービスを拡充していきたいとGoodnight氏は述べている。
SASは、自らのイノベーションによって製品を開発することが多く、企業買収にはあまり積極的でない印象も受ける。しかし実際には、「この30年でだいたい1ダースほどの企業は買収した」とGoodnight氏。活動基準分析管理ソフトウェアを提供していたABC Technologiesの買収や、流通業界向けソリューションを提供していたMarketmaxの買収などがその一例だ。
現在買収のターゲットとして考えている企業はあるのかとの問いに、同氏は「ある」と答えた。企業名やどういった分野かは明かさなかったが、「自分たちで開発するとなると2年はかかるが、2年も待てないという技術を持った企業だ」とGoodnight氏は語った。
一方で、非公開ソフトウェア企業では世界最大と言われるSASは、非公開であるため敵対的買収のターゲットにはなりにくいものの、同社のソリューションを手に入れたいと考える大手企業が多いのも容易に想像がつく。もし買収のオファーがあればどうするか、とGoodnight氏に聞くと、「200億ドル出すなら考えてもいい」と同氏。OracleがSiebel Systemsを買収した金額が58億ドル、Adobe SystemsがMacromediaを買収した金額が34億ドル、SymantecがVeritas Softwareを買収した金額が135億ドルということを考えると、企業買収に応じるつもりはないということが伺える。
「SASの優秀な社員や、新しいソリューションを作り出すイノベーションの楽しさを考えると、ここでの仕事は面白すぎて手放すなんて考えられない。少なくとも私がここにいる間は手放したくない」(Goodnight氏)
イノベーションを促進するために、同社では新ソリューションを生み出す前の実験施設となる「Advanced Analytic Lab」や、最新最速のハードウェアを使ってソフトウェアがどのようなことができるのかをテストする「Advanced Computing Lab」を開設したばかり。各施設には約30名ずつの技術者が在中しており、日々リサーチに精を出している。
Fortune誌の「100 Best Companies to Work For(最も働きがいのある企業ベスト100)」で常に上位にランクインする同社は、社内にスポーツ施設や保育園、ホテルなども完備するなど、福利厚生が充実しており、10年以上働き続ける従業員も少なくない。人気企業のため応募者も多く、買い手市場の同社だが、「こうして集まったよりすぐりの社員が長く働き続けることはとても良いことだ」(Goodnight氏)として、コストカットのために福利厚生プログラムを削減することは全く考えていないと話す。
社長も社員も離れたくないと思える企業からイノベーションが生まれるのは、自然なことなのかもしれない。