IBM/コグノスの総合力はいかに
IBMとコグノスの統合に関して、発表の中では「両社の製品に競合する部分がほとんどなかった」ことが買収の理由のひとつとして挙げられていた。これが意味することのひとつは、買収完了後の製品ラインの整理が比較的迅速に行われるだろうという点だ。
コグノス、マーケティング本部プロダクト・マーケティング シニア・プロダクト・マネージャーの高澤正道氏は、その点についてこう説明する。
「(IBMとコグノスの件を含め)総合ベンダーによる、BI/PM分野のベンダーの買収が相次いだが、その後、それぞれのベンダーでは両社の製品統合の作業がどうしても必要になる。実は、コグノスに関しては、統合の段階は既に終わっていると言って良い。2003年にReportNetをリリースした段階で、アーキテクチャをSOAに基づくものに一新。2005年に発表したCognos 8では、このSOAのインフラの上にコグノスが持つすべてのBI機能を載せている。統合が終わっているということは、次の段階である“イノベーション”へのフォーカスを迅速に進められるということでもある。また、処理能力の増強、新機能への対応などもSOAのアプローチで容易に実現できる」(高澤氏)
こうした利点に加え、これまで中立的な立場のベンダーであった経緯から、ソースとなるデータタイプを選ばない点、既存の多くのセキュリティインフラ(認証システム)への統合が容易な点、単一のプラットフォーム上でデータの一貫性を保てるといった点なども、競合に対するアドバンテージとして挙げられるとする。
BI/PMの文化を根付かせるためにすべきこと
20年近い日本でのビジネスの中で、導入実績も多いコグノス。既に導入済みの企業においては、部門を超えて全社規模で、同社のツールを使っているケースも多いという。そうした企業では、すでにBI/PMツールを業務の中で各スタッフが当たり前のように使うことが「文化」として定着しているのだという。一方で、まだまだそうした「文化」が育っている企業の数は多くないとも、丸山氏は言う。
「まだまだ、“BIとはレポーティングのこと”と考えている企業が多いのも現実。それは、企業のトップが、経営に関する情報を“待っている”か“自分から取りに行く”かといった意識の違いにもよるのかもしれない」(丸山氏)
例えば、10年間ビジネスを続けている企業があるとする。10年前と現在とでは、顧客の数、製品の数、製品のライフサイクルは著しく変わっているはずだ。10年前の状態のままであれば、現在のBI/PMシステムでやっているようなデータ処理は、社内の一部の人がスプレッドシートなどを使って手作業でできたものかもしれない。しかし、現在ではとても負荷の高い作業になっているはずだ。にもかかわらず、ITの要件は10年前と変わっていないという企業は、現実にもまだ多いと言う。
そうした作業にかかる時間とコストをシステムに肩代わりさせ、より競争力を高める作業に充てるべきであるという合理的な考え方を、多くの日本企業は持つべきなのかもしれない。
「BIやPMという言葉は、“企業としての戦略”に関連するものというイメージが強いのかもしれない。もちろん企業としての戦略も重要だが、広報部には広報の戦略が、営業部には営業の戦略というものが存在する。そして、同じ部署に所属する個人にも、人それぞれの戦略があるはず。それぞれのレベルに応じて、必要なデータを最も効率的にはじき出す方法論を、企業は持つべきだ。日本においても、企業の経営層の人々に、そのことを理解してもらう余地はまだ多くあると思っている」(丸山氏)
コグノスではBI/PMプラットフォームとツールの提供に加え、ファイナンス、マーケティング、セールスといった企業内のファンクションについて、それぞれにどういうKPIを設定し、モニタリングすべきかについてのベストプラクティスをフレームワーク化し、その内容を書籍として広く公開している。こうした内容は、通常、コンサルティングやテンプレートに含まれるものとして有償で提供されるケースが多い。その点で、コグノスのこの取り組みは、ある意味でユニークとも言える。
「BI/PMを実際に効果的に使ってもらい、企業に根付かせるためには、ツールの提供だけでなく、その利用ノウハウをユーザーにしっかりと理解してもらうことが必須。そうしなければ結局は、その機能が十分に使われないまま、ユーザーには投資に対する不満を抱かせることになる。こうした取り組みをベンダーとして積極的に行っているというのも、コグノスの特色のひとつだ」(丸山氏)
総合ベンダーとの戦いに、よりアグレッシブな立場で臨むことが可能になったコグノス。IBMとの統合がどのように進むのかも含め、今後の同社のアクションには大きな注目が集まるだろう。