マイクロソフトをデファクトから卒業させた「情報社会」

公文俊平 2008年01月29日 08時00分

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 これまでの産業社会では「商品」の生産が中核的な社会活動となっていたが、情報社会では、それが「通識」の産出に置き換わる。「商品」が、交換を前提した財やサービスであるのに対し、「通識」は、コミュニケーションによる共有(※1)を前提した知識や情報である。したがって、産業社会の市民(シティズン)たちを交換者として特徴づけるならば、情報社会の市民たる「ネティズン」(※2)たちはコミュニケーターとして特徴づけられる。

 産業社会の富は「膨大な商品集積」(マルクス「資本論」より)として現れ、交換を通じてそれを欲する人の手に配分されることで、社会的な有用性を増大させる。同様に、情報社会の富たる「智」は「膨大な通識集積」として現れ、それが広く共有され普及することによって、その社会的な有用性を増大させるのである。

 産業社会では、生活に必要な商品や欲しい商品を入手するための単純な商品生産にとどまらず、「利益」をあげる目的で商品の生産や販売が行われる。これが、「富のゲーム」のプレイヤーとして企業がたずさわる営利事業(ビジネス)である。同様に、情報社会のネティズンたちの大多数は、自分が関心をもつ通識を共有するために単純なコミュニケーションを行うが、一部の人々や組織は、「智のゲーム」のプレイヤーとして、「評判」あるいは知的影響力を得るために、通識の生産や発信を行う。実際、「アルファブロガー」などと呼ばれるコミュニケーターたちを駆り立てているのは、誰よりも多くの読者を集めて注目を引き、評判を高めたいという強烈な欲求だろう。

 とはいえ、情報社会のコミュニケーションは決してビジネスと無縁ではない。社会活動のきわめて大きな部分が通識のコミュニケーションになっているとしたら、ビジネスの最大の対象がコミュニケーション活動、あるいはコミュニケーターになるのは理の当然である。つまりコミュニケーションをより効果的に行うためのプラットフォームや機器、アプリケーション、さらにはコミュニケーションに付随する広告型サービスを商品として提供することが、これからの大きなビジネスになる。かつてWindows OSとIntelのCPUの組み合わせを「Wintel」と呼んだことや、近年のGoogleの「AdWords」や「AdSense」のようなネット広告ビジネスは、そのめざましい成功例である。

 これまでの産業化過程では、国家は軍事および警察力の行使をはじめ、道路、港湾等の整備、産業政策や社会保障政策の実施など、さまざまな形で産業化の促進に努めると共に、市民や環境の保護にかかわるさまざまな規制措置も導入してきた。同様に、情報化に際しても、国家がさまざまな振興や規制策を講ずるのは当然だろう。だが、情報化の場合には、国家だけでなく企業もまた、その支援や規制に参加することが予想され期待される。

 そうした支援のなかでもとりわけ重要なのが、コミュニケーション環境の整備である。産業化の進展に大きく貢献した要因の中に、商品の標準的な規格や分類枠組みの整備があるが、情報化の進展にとっても、通識の標準的なフォーマットや分類枠組み(タクソノミー)の整備が重要な社会的課題となる。

 その整備における原則となるのは、

  • オープン性:個々のタクソノミーやフォーマットの内容が明らかにされている
  • 標準性:同一のタクソノミーやフォーマットが広く採用されている
  • 進化可能性:複数の標準間の競争または新しい標準の形成が保証されている
  • 標準形成過程自体の標準化、すなわちメタ標準化が行われる

ことなどがあげられよう。

※1 筆者はこれを「通有」と呼んでいる。
※2 筆者はこれを「智民」とも呼んでいる。

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