4月14日に米国で行われた「Salesforce for Google Apps」の発表を受け、Salesforce.comのマーケティング、アプリケーション、教育統括責任者であるGeorge Hu氏が来日し、今回の提携に関する戦略の説明会が都内で開催された。
日本法人セールスフォース・ドットコムの社長である宇陀栄次氏は、「クラウドコンピューティングの世界で、ビジネスコンピューティングのリーダーとコンシューマのリーダーが対等な関係でアライアンスを結ぶことができた」と述べ、この提携によりMicrosoftやOracleなどが提供する古いタイプのソフトウェアが、いよいよ終焉を迎えるであろうと指摘した。
続けて、利用者が特別なインフラを用意せずに、さまざまなアプリケーションを、どこからでも容易に使えるクラウドコンピューティングならば、中小規模の企業や都市部以外の地域、さらにはビジネスを行う上で時間などにハンデを負っているユーザーに、新たなビジネスチャンスを与えることができると主張した。
Hu氏は、Salesforce.comとGoogleには共通のビジョンがあると説明した。
技術面ではマルチテナントプラットフォームの提供、ビジネスモデルではサブスクリプション型という新しいモデルを持っていること、そしてパートナーとのエコシステムの構築──この3つのビジョンを共有しているという。
両社は2003年、社会貢献のための共同助成金プログラムで初めて協業して以来、APIの統合、Salesfforce.comから直接管理できるGoogle AdWords向けサービスなど、継続して協業関係を築いてきた。Google AdWordsについては、両社の取り組みを通じて200万を超えるキーワードが取引されているという。
一連の協業活動を通して、Googleが今後なにをしたいのかということについても十分に意見交換しており、Hu氏はそれを十分に理解しているという。こういった実績の上に今回の協業があり、この提携は業界に大きな革命を起こすものだと胸を張る。
とはいえ、今回の協業は両社が独善的に決めたことではなく、顧客の声によるものだとも話す。
「両社はともに顧客主体の企業だ。SalesforceのサービスとGoogle Appsを融合して欲しいという、顧客のたくさんの声があったからこそ実現した協業だ」(Hu氏)
今後も顧客の要望を取り入れ、両社の提携をさらにステップアップさせていきたい考えだ。
実際、Salesforce for Google Appsのユーザーコミュニティもすでに発足しており、顧客の意見を吸い上げる体制はできあがっている。さらにパートナー向けにも、AppExchangeの中に専用のカテゴリが用意されている。
開発者向けには新たなAPIが公開される。これはSalesforce.comのプラットフォームサービス「force.com」上で利用でき、Salesforce.comとGoogleの2社でしっかりとしたクラウドコンピューティングの土台部分の、継続した提供を約束するものだという。
Salesforce for Google Appsのサービスは、すでに15カ国語に対応し、世界中に無償で提供されている。発表会場では、Gmail、Google Docs、Google CalendarとSalesfoceのサービスが実際に融合している様子がデモンストレーションで紹介された。
Gmailでは「Send Gmail + Add to Salesforce」ボタンが用意され、Gmailでの顧客とのやり取りが自動的にSalesforceの顧客管理アプリケーション対応ログに記録されたり、Salseforceのスケジュール管理機能とGoogle Calendarが自動同期する様子が示された。これらの機能はもちろん日本語化されており、Salesforce.comのユーザーであればすぐにでも利用できる。
2008年夏にはSalesforce.comを窓口とする統合サポートサービス「Salesforce for Google Apps, Supported」を開始する。価格は、1ユーザーあたり月額1260円(現時点の米国予定価格10ドルを日本円に換算した金額)での提供となる予定だ。これら一連の協業はGoogleにとってもちろん大きなビジネスチャンスであり、結果的に「SalesforceがGoogle Appsの最大規模のリセラーになるだろう」とHu氏は言う。
今回の両社の提携で、これまで活用してきたソフトウェアが一気に終焉を迎えるとは思えない。しかし、Salesforce.comがGoogleという強力なパートナーを得て、業界のルーキー的なポジションから一気にステップアップすることは間違いないだろう。ベテランプレイヤーがまだまだレギュラーポジションを堅持するのか、あらたなSaaSがレギュラーを奪うのか。ユーザーは、自社のITプレイヤーの構成を今一度確認するときに至ったのかもしれない。