次世代レコメンド技術の実現に向けて
このように、次世代のレコメンド技術を実現するためには、多くの情報を収集し、つなげ、分析しなくてはならないが、その施策を考えてみたい。まず、情報を収集するための方法はアクセスログだけではない。共有すべき情報はAPIを利用することもできるし、接客によって得られる顧客の特徴などは会員登録から結びつけることもできる。また、ウェブカメラを利用した顔認証システムや、電子マネーの購入履歴、携帯電話の位置情報、さらには体重計や冷蔵庫の中身の情報までをネットワーク経由で入手し、レコメンド技術に連動させることも夢ではない。
さらに今後は、Cookieを拡張し、クライアント側にユーザーの特徴や嗜好などの情報を蓄積してサイト側がこれらの情報を自由に引き出せるといった規格が登場することも考えられる。こうした情報は、プライバシーの観点から実際にはどこまで活用できるかわからないが、これが実現すればユーザー1人1人がウェブ用のエージェントを持つことになる。このエージェントは、バーチャルな世界におけるもう1人のユーザー自身で、そのユーザーの特徴や嗜好といったデータを備えている。人は誰でも、職場やプライベートなど状況によって様々な人格を持っているため、ウェブ上ではウェブ用の人格をユーザーが自由に作り上げればよい。匿名性を生かしたこの人格は、ウェブ上においては最も正直な人格となり、より興味深いレコメンドが実現できる可能性がある。
次に重要となるのが、サイト特有のルールを繰り返し分析するロジックだ。現状では、各サイトがベンダーから提供されるロジックを利用するにとどまっている。しかし、第5回でも解説した通り、サイトによって構成や商品のコンセプトが違うため、本来サイト特有のロジックを適用する必要があるのだ。こうした状況を踏まえ、今後のレコメンド技術では複数のロジックを提供することが前提となり、各サイトの担当者が簡単にロジックを切り換え、カスタマイズできる機能が登場するだろう。
レコメンド技術はこうして進化を遂げ、多様化するユーザーのために検索分野の範囲を拡大していく。前述したようなサイトをまたぐレコメンドが横軸での拡大としたら、上流へと向かう縦軸での拡大も考えられる。それは、サイト内検索との連携と、GoogleやYahoo!と並ぶ独自の切り口をもった新検索エンジンとの連携だ。
まず、能動的なサイト内検索とレコメンド技術の連携は容易に想像できるだろう。サイト内検索とレコメンドエンジンは、現段階ではたいてい個別に存在しているが、両者の目的はほぼ共通しているため、サイトを構成する重要な機能の1つとして統合される可能性が高い。この点に関しては、前回解説した表示方法やロジックの選定によるマーケティング活動が重要だ。
さらに上流の検索エンジンであるGoogleやYahoo!では、検索結果に「関連検索」や「スポンサー」を表示するレコメンドがすでに存在している。これらの検索エンジンは、世界中のウェブページを公平に判断し、「誰もが求めるだろうウェブページ」を選ぶことを主軸としていると前述した。しかし、多様化するユーザーがGoogleやYahoo!では物足りなくなった時、独自の切り口を持った新たな検索エンジンが登場し、ユーザーに合わせたウェブページの検索結果を表示したり、検索キーワードに関連するまとまった情報を提供したり、ダイレクトに商品情報などを表示することが想定される。それは、GoogleやYahoo!と並ぶレコメンドエンジンといってもよいのかもしれない。
次世代のウェブでは、多様化するユーザーに対し、コミュニケーションを通して状況に合ったサービスを提供することが求められている。その中でレコメンド技術は、間違いなく重要なキーワードとして存在し、ウェブに大きな影響を与えていくだろう。
そして、ウェブを介したコミュニケーションの1つの方法としてレコメンド技術を最大限に生かすには、「どの情報をもとに」「何をレコメンドするのか」という判断基準を設け、リアル店舗での接客手法を忘れてはならないのだ。

筆者紹介
高島理貴(たかしま まさき)
ケイビーエムジェイ インターネットプロダクト&マーケティング事業部 プランニング&コンサルティング グループ アクセス解析チーム チームリーダー Newビジネス企画 担当。埼玉県生まれ。年間総計30億ページビュー以上のサイトを解析し、クライアントのサイトの成長をお手伝いするアクセス解析コンサルタント。