活発化するエンタープライズ向けクラウドコンピューティング - (page 3)

文:Dion Hinchcliffe(Special to ZDNet.com) 翻訳校正:村上雅章・野崎裕子

2008-09-08 08:00

種類の異なるクラウド

 Platform-as-a-Service(PaaS)のことに触れずして最近のクラウドコンピューティングについて議論することは難しい。近頃流行の頭字語であるPaaSは、本質的にはWebサービスを構築するためのプラットフォームに通じるクラウドコンピューティングサービスであり、そういった点でWindowsやLAMP(Linux、Apache、MySQL、PHP)とも相通じるものがある。また、ユーティリティコンピューティングという言葉も、クラウドコンピューティングに関する議論でよく見聞きする。これは、クラウドコンピューティングにおける「使用した分だけ支払う」というビジネスモデルに主に焦点を当てたものであり、従来の企業データセンターで無駄になっている、あるいは十分に活用されていない部分を減らすものとなっている。こういった言葉はいずれも、クラウドコンピューティングにおける重要な側面を表しているものの、それだけでは現在利用可能になっているさまざまなクラウドコンピューティングの能力を個々に説明するには不十分である。

 クラウドコンピューティングと一口に言っても、提供できるサービスはさまざまな種類に分類することができ、現時点でベンダーは特定の分野に注力している傾向が見受けられる。また、クラウドコンピューティングの種類とベンダーを選択することによって、アーキテクチャの選択までもが行われるという点に注意しておく必要があるだろう。クラウドコンピューティングサービスのアーキテクチャによって、使用方法や、サポートされる標準、発生する制約、柔軟性、セキュリティ、パフォーマンスなど、クラウドコンピューティングサービスを用いて可能となることを含めたほぼすべての側面が左右されることになるため、これは重大な決断となるのだ。

 以下は、現在台頭しつつあるクラウドコンピューティングサービスの種類である。

  • コンピュートクラウド--コンピュートクラウドの例として、「Amazon EC2」や「Google App Engine」、Berkeleyの「BOINC」を挙げることができるものの、これらは大きく異なったモデルとなっている。こういったサービスはいずれも、提供されたコードを実行することができる、スケーラビリティの高い、安価なオンデマンドのコンピューティングリソースである。コンピュートクラウドは最も汎用的なクラウドコンピューティングサービスであり、さまざまな目的で利用することができる。現在でも、こういったサービスが利用可能になっているとはいえ、大企業が慣れ親しみ、当然あるものと考える標準的な管理機能や監視機能、制御機能の多くはまだ実現されていない。現在のところ、Amazonのコンピュートクラウドがエンタープライズクラスのインフラとサポートを提供しており(「Amazon Web Services gets serious about enterprise」)、そのオープンな性格によってユーザーが選択したインフラ管理を自由に実行できるようになっている。また、Terremarkが大企業向けに用意している「Enterprise Cloud」のような、エンタープライズ向けのクラウドコンピューティングといったものも提供されるようになってきている。
  • クラウドストレージ--クラウドコンピューティングの世界において、ストレージは最初に登場した主要サービスの1つであり、今でも進んだ取り組みがなされている、最も一般的な分野である。最近公開されたクラウドストレージサービスを100個挙げたリストを見てみると、この市場の成熟度が判ろうというものだ。セキュリティとコストは最も重要な問題であり、さまざまなものが提供されている。なお、現時点では「Amazon S3」が市場をリードしている。
  • クラウドアプリケーション--ソフトウェアアプリケーションのうち、クラウド中のインフラに依存するものがこのカテゴリに入る。クラウドアプリケーションとは社外で実現されるSaaSであり、ブラウザ経由ですべてをユーザーに配信するウェブアプリケーションから、ホスティングとIT管理をクラウドに移管し、ネイティブクライアント、および他のどこかでホスティングされるアプリケーションインフラを用いるウェブクライアントの双方で構成される「Microsoft Online Services」のようなハイブリッド型まで、さまざまなものが考えられる。
  •  ある種のクラウドコンピューティングは、従来のカテゴリに分類することができない。これは、サービスとしてクラウドの中で働く人々を支援するものである。この好例がAmazonの「Mechanical Turk」だ。これは大人数の人々をそのオンデマンドのクラウドに参加させるというものである。このモデルには、ネットワーク上でサービス指向の一貫したインタフェースを提供することで人々が直接コラボレーションできるようにするというサービスが含まれている。このサービスは、クラウドに基づいた形式のクラウドソーシングであるとともに、オンデマンド形式のアウトソーシングでもある。

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