経営者の皆さん、エンジニアをアーティストとして尊敬していますか? - (page 2)

エリック松永

2008-12-02 10:00

ソフトウェアエンジニアはアーティスト

 OSSの中心に流れているものは、ソフトウェアエンジニアのプライドです。よりいいものを作りたい、そして多くの人たちに使って欲しいという、彼らの欲求こそがOSSを支えています。

 これまでのソフトウェアの作られ方への反抗ともいえるでしょう。つまり、エンドユーザではなく企業の戦略にあったプログラムを意思に反して書かなければいけないことへの反抗ですね。これは音楽業界に似ているなと思います。素晴らしいアーティストが商業主義の波に飲み込まれて、巨大な音楽ビジネスの中のコマとして自由な表現が出来なくなってしまい、レコード会社の戦略にのったイメージを演じ、作品も時代やマーケティングに合わせて創っていた構図です。音楽ビジネス業界をIT業界に、そして巨大レコード会社を巨大IT企業に置き換えれば、ソフトウェアエンジニアが置かれている立場は理解できるのではないでしょうか。

 OSS本体は、優秀なソフトウェアエンジニアが自分たちの技術やセンスを切磋琢磨して昨日拡張や改良を日々繰り返すものです。これは誰がお金を出すというのではなく自主的な行動です。先ほど紹介したLinuxは元々ヘルシンキ大学に通うLinus Torvalds氏が一人で作ったOSSが起源です。当時高価だった商用のUNIX OSを自分の手で、それも無料でいろいろな場所で使えるようにしたのです。OSSの凄さは、例えばトーバル氏のフリーの志に賛同したエンジニア達が、Linuxの開発に自然発生的に参加していったことです。1991年に1人で創り始めたLinuxは6年後には300万人以上のエンジニアが参加していたそうです。 OSSを支えているのは志の高い優秀なエンジニアであることは間違いありません。

ソフトウェアエンジニアをアーティストとして尊敬していますか?

 皆さんの企業におけるソフトウェアエンジニアに対するイメージはどうでしょうか? 戦略や業務といった、ビジネスのメインストリームから外れた連中などと思っていませんか。「自分はコンピュータは分からないから」と自慢げに言っていませんか? 前にEAの回でも申し上げましたが、今の事業戦略はITなしに成り立ちません。その中でソフトウェアエンジニアが担う役割は非常に大きいと私は感じています。

 言ったことを納期通りに作ればいい、では、アーティストは良い作品を作れません。彼らはOSSとは全く異なった、自分の技術が理解されない舞台で自分の技術を試そうとしています。もったいないと思いませんか? OSSはプロのアーティストの仕事です。やらされ仕事に慣れたエンジニアの扱うプログラムではありません。もし、あなたの会社が、IT、そしてソフトウェアエンジニアに対して、尊敬の念で接し、オープンな社風でないのなら、OSSを活用しないことを強くお勧めします。

 ちなみに、CNET Japanのパネルディスカッションで「ITベンチャーの生きる道」というテーマに対し、私はITベンチャーが上場したかはどうでもいい、マネーゲームはやめるべしと言いました。私にとってのITベンチャーは巨大IT企業に対する聖域であるべきだと思っています。株主がいる以上、戦略に縛られるITは仕方がありません。だからこそ、ITベンチャーは、大企業の制約にとらわれない自由な発想でIT産業を盛り上げて欲しいと願っています。今後のIT産業を生かすも殺すも、ITベンチャー次第と考えているわけです。私はアーティストとしてソフトウェアエンジニアを尊敬する姿勢は変えないつもりですし、応援していきたいと思っているのです。少し個人的な話になってしまいましたが……

 企業の話に戻りましょう。こうしたエンジニアの尊敬を活かして成長した企業があります。そう。ご存じGoogleです。

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