思わぬ副次的な導入効果も
ZCSの全学導入にあたっては、利用法に関する数回の説明会とマニュアル作成を行い、約1カ月のテスト期間を経て一斉に本稼働へと移った。もともと、ITに関するリテラシの高いユーザーが多いこともあり、本稼働に当たって大きなトラブルはなかったという。
むしろ、リテラシの高いユーザーが多いがゆえに、新たなシステムへの評価は厳しくなりがちだそうだが、森河氏は「ZCSの導入にあたっては、クレームはほとんどなく、むしろ良いフィードバックを多くもらえている。こうしたケースはこれまで少なかった」と笑う。
ZCSのAjaxを駆使したリッチなユーザーインタフェース、動作速度といった点に対する評価に加え、1ユーザーあたり、学生の場合2Gバイト、教職員の場合5Gバイトまで利用できるストレージ容量の増強や、従来のメールシステムでは不可能だった携帯電話からのアクセスが可能になった点など、大幅なユーザーエクスペリエンスの改善が、こうしたフィードバックにつながっているのではないかと分析している。
また、当初からの目標のひとつであった、各ドメインのメールシステムの一本化による運用管理負荷の低減も実現された。Linuxに関する知識が少ない担当者でも、GUIベースでのシステム管理が可能になった点が大きいという。
これらに加え、単なる「メールシステムの変更」にとどまらない導入効果も出始めている。そのひとつが、「グループウェア的な情報共有システム」としてのZCSの活用だ。
これまで東京薬科大学では、学生間、研究者間、教職員と学生間の情報共有にあたり、グループウェア的なシステムの導入を試みてきたが「そのほとんどが失敗していた」(森河氏)という。
原因のひとつは、「メール添付」ですべての情報共有を完結させようとする文化が深く根付いてしまっていたことにあったが、「メールをフロントエンドに、カレンダーやドキュメント管理、外部アプリケーションと連携する」というコンセプトのZCSを導入することにより、ユーザー側にも情報共有に対する意識の変化が起こり始めた。
「メール以外の使い方については、特にマニュアルなども作っていなかったのだが、ZCSの導入以降、ユーザーが独自に工夫を行って、文書やスケジュールの共有を始めている。中には、ネットストレージとしてウェブメールを利用するといった、導入側の想定外の使い方をする人も現れた」(松﨑氏)と、コミュニケーション基盤の刷新がユーザーの意識に与えた影響の大きさに目を見張る。
今後は、そうしたユーザー間でのZCSの新たな活用アイデアなどを吸収しつつ、より幅の広い「Zimlet」の活用や、既に展開しているオープンソースのeラーニングシステム「Moodle」をはじめとする学内の他システムとの連携、学生に向けて大学から提供する情報サービスの一環としての活用を目指したいという。
「大学でITシステムに割ける予算は年々厳しくなっているが、ここでの事例をきっかけに、ZCSによるコミュニケーション基盤の構築を考えている大学が導入に踏み切れるケースが増えればうれしい」と松﨑氏は語る。