財務会計と管理会計--工事進行基準はプロジェクト管理体制を見直す契機(前編) - (page 2)

木村忠昭(アドライト)

2009-02-13 13:00

 また、ソフトウェア業界では、サービスが形のない商品であることから、既存の会計ルールをそのままあてはめると不整合が生じることが多くあった。資産性の判断など、主観的な判断が介入してしまう点も難しい部分である。サービスが無形であることを逆手にとり、不適切な会計処理で粉飾決算が行われる事例も過去いくつか存在した。

 そこで、ソフトウェア業界特有の会計ルールを定め、そのような不正を防止すべく、「情報サービス産業における監査上の諸問題について」「ソフトウェア取引の収益の会計処理に関する実務上の取扱い」などの会計ルールが2006年、2007年と相次いで公表された。

 このように、ソフトウェア業界の会計をめぐる今までの経緯を考えると、今回の「工事契約に関する会計基準」の適用でも、これまでのソフトウェア業界の会計慣行や会計ルールを十分に考慮する必要がある。具体的には、今までも実務上行われてきた分割検収や複合取引など、ソフトウェア取引をめぐる会計処理については、会計上の要件を満たすことを意識するなど、引き続き対応が必要になる。

 そして、開発コストの見積もりや集計には原価計算を行う必要があるが、これも原価計算基準に準拠した形での個別原価計算制度の構築が求められる。原価計算制度は、ひとつの絶対的な答えがあるわけではなく、会社ごとに、その実態や目的に即して構築していくものであるため、原価計算基準に準拠しながら、労務費の単価決定や製造間接費の集計などのポイントをおさえた原価計算制度の構築を行わなければならない。自己流の原価計算のままでは工事進行基準の適用は難しいということを頭に入れておいてほしい。

 また、金融商品取引法や会社法では、内部統制の構築が要求されているため、工事進行基準と内部統制の関係でも留意が必要になる。たとえば受注制作のソフトウェアでは、プロジェクトの受注から販売までの各プロセスで、適切なコントロールが必要になる。その上で、工事進行基準特有のポイントである見積もりの変更などについても、ほかの内部統制プロセスと同様、適切な内部統制の仕組みを構築していかなければならない。

関連する基準・法令など
研究開発費等に係る会計基準(1998年3月13日)
研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針(1999年3月31日)
研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関するQ&A(1999年9月29日)
情報サービス産業における監査上の諸問題について(2005年3月11日)
ソフトウェア取引の収益の会計処理に関する実務処理上の取扱い(2006年3月30日)
工事契約に関する会計基準(2007年12月27日)
工事契約に関する会計基準の適用指針(2007年12月27日)

(後編は2月20日掲載予定です)

木村氏
筆者紹介

木村忠昭(KIMURA Tadaaki)
株式会社アドライト代表取締役社長/公認会計士
東京大学大学院経済学研究科にて経営学(管理会計)を専攻し、修士号を取得。大学院卒業後、大手監査法人に入社し、株式公開支援業務・法定監査業務を担当する。
2008年、株式会社アドライトを創業。管理・会計・財務面での企業研修プログラムの提供をはじめとする経営コンサルティングなどを展開している。

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