また、ストレージの基盤整備によって「フィルムレスのシステムとしてうまく動き始めた」(内田氏)という声もある。いままでは、「詳細に見えない」ということで、現実には「フィルムの方がよい」という医師もいた。モニターが画素数に追いつかないという問題があったのだが、今回高精細モニターを新たに用意。医師の評価も上がった。
当然、フィルムがなくなれば保管場所やフィルム代などランニングコストの削減にもつながる。またフィルムレスだと保険診療点数が上がるという、病院にとってはありがたい効果もある。
基盤整備にあたっては、医師や医療スタッフなどエンドユーザーの抵抗はなかった。むしろ、うまく動き始めると、さらに高い要求が出てくるという。実際にシステムが稼働すると、「もっと高精細の端末が欲しい」という要求も寄せられるようになった。新システムが順調に稼働し始めた証左である。
また、システム的には将来に向けての足がかりもできた。岩井氏がこう言う。
「副次的なメリットですが、今回大量の機器を導入したことにより、空調増設・電源増設やサーバ設置場所が必要になりました。そのため、サーバ室のファシリティ面を今後どのように更新するか、電源、空調がどのくらい必要になるのか、空間容量をどのくらい使っていくのかというようなファシリティ面でのレイアウト、更新計画を立てることができました」
サーバ、ストレージ統合の足がかりに
放射線画像システムのストレージ基盤が整備され、一方でネットワークも増強された。4月の独立行政法人化、県立こころの医療センターと県立こども病院との連携に向けて準備は整った。
しかし、今回の放射線画像を同病院から外部に持ち出すには壁がある。医療情報システムにつきものの厚生労働省のガイドラインや通達だ。カルテなどの診療録や今回の放射線画像などの「診療に関する諸記録」に関しては、5年という保存期間とともに、外部保管では原本性保障が義務づけられている。
医療保険福祉サービス分野向けの公開鍵認証基盤(Healthcare Public Key Infrastructure:HPKI)などによって、証明できる形で電子媒体を保存し、また外部に出さなければならない。つまり、法律的なハードルがあり、容易に外部に持ち出せない事情がある。
しかし、その基盤も順次整備可能となる。岩井氏が、今後についてこうコメントしてくれた。
「今後、外部ネットワークとの回線をもつことになります。回線容量と可用性・セキュリティが担保されれば外にサーバを置くことも可能となってきます。そのためEMCさんやそのユーザーであるデータセンターには、外部データセンターに出す時に、電子証明書のあるデータ保管を提供できるサービスを提供していただきたいと考えています。データセンターのサービスに、HPKIの下位認証局サービスがついていればよいと思っています。もしかすると、これがクラウドコンピューティングなのかもしれませんね」
診療録や診療に関する諸記録の扱いについては、いわゆる個人情報という点では住基ネットよりも堅牢なものが必要になるというのが岩井氏の考えだ。「しかしどのような形になろうが、私たちとしては、ハードウェア的には十分耐えられるものを準備したいと考えています」と言う。将来的には、今回のシステムをベースに、インターネット経由で病院・診療所・患者個人がデータを閲覧できるサービスが提供される可能性もある。
また今回、ストレージをマルチベンダーでコントロールすることを目的にEMCのECCを入れているが、岩井氏は「これによってサーバとストレージを統合、コントロールしていくためのソフトやツール群、またそのノウハウ、手法が確立された」と言う。
ストレージ基盤の整備がきっかけになって、同病院の医療情報システムの将来に向けたグランドデザインはより強固でより現実的なものになっていく。