
過去5年間でCiscoのCEOであるJohn Chambers氏の発言を耳にしたり、同社が行ってきた買収(WebExやFive Across、PostPath、Jabberなど)を目の当たりにしてきた人であれば、同社が企業ネットワーク上のコンピュータを連携させるためのスイッチングハブや、ネットワークやISPをインターネットに接続するためのルータを販売するということだけで満足しないということは理解できるはずである。
Ciscoは同時に、「Human Network(ヒューマンネットワーク)」キャンペーンを通じて、同社の市場をITプロフェッショナル向けのものから一般大衆向けのものへと拡大してきている。このキャンペーンが、一般コンシューマーに対するCiscoブランドの浸透を目的としていることは明らかである。
このため、サーバベースのアプリケーションやシンクライアント、クラウドコンピューティングの普及に伴ってサーバ市場が拡大しようとしている時期に、Ciscoが自社の基幹市場に隣接する市場(ハードウェアやソフトウェアに対する同社の専門技術が適用でき、ITプロフェッショナルに対する強いブランド力を利用して即座に市場シェアを獲得できるような市場)に進出するという戦略を採っても驚くにはあたらないのである。
とは言うものの、Ciscoのこういった動きによって、(また、HPがネットワーク分野に貪欲に挑んでいることとも相まって)両社が真っ向から戦うことになるだけでなく、IBMやDellのようなサーバベンダーも巻き込んだ一連の出来事が引き起こされることになるだろう。Dellは既にローエンドのネットワーク製品に手を出している。また、IBMも他社を買収することで簡単にこの分野に進出することができるだろう。例を挙げると、事実上破綻しているNortel Networksのネットワーク部門を買収することも可能なのである。
CiscoはかつてHPやIBM、Dellと緊密な協調関係にあったため、こういったサーバベンダーはサーバ事業に専念し、Ciscoはネットワーク事業に専念するという暗黙の休戦協定が結ばれていたのだ。しかし、今やすべては白紙に戻ったも同然である。
当然と言えるかもしれないが、Ciscoはサーバ分野への参入について控えめなスタンスを取っている。Ciscoの最高技術責任者(CTO)であるPadmasree Warrior氏はThe New York Times紙に対して「われわれはこれを新たな市場ではなく市場の遷移と捉えている。そして、大きな遷移が起こる際には必ず、どこかで大手企業との競合が発生するものだ」と述べている。
しかし、Pacific Crest SecuritiesのアナリストであるBrent Bracelin氏は、Ciscoのサーバ市場への参入が大きな波紋を呼ぶと考えている。同氏は「その製品は、この1年で最も重要な、そして最も話題を呼ぶものになるだろう。IBMとHPはいずれも、強力な対抗策を用意することが予想され、業界再編の新たな動きへとつながっていくと考えられる」と述べている。