受賞が発表され舞台に上がった彼女は、なんと!アカデミー賞と同様に涙を流しながらアカデミー主演女優賞を獲得した時のスピーチを一部アレンジして再現しました。迫真の演技と絶妙なスピーチで観客を笑いの渦に沸かせたHalle Berry。無知をさらしたSarah Palinが「Africa is a continent〜♪」と歌ったような自虐ギャグのパターンかと思いきや、彼女はアカデミー賞主演女優賞の証であるオスカー像とラズベリー像を両手に持ち上げこう言いました。
I never in my life thought that I would be here, winning a Razzie. It's not like I ever aspired to be here, but thank you. When I was a kid, my mother told me that if you could not be a good loser, then there's no way you could be a good winner.
正直言って、自分がここでラズベリー賞を受賞するなんて思いもしなかったわ。こんな所に来たいと思っていたわけじゃないけれど、どうもありがとう。私が小さい時、母が私に言ったわ。「偉大な敗者になれない限り、偉大な勝者にはなれない」ってね。
真の勝者になるために、このラズベリー賞を堂々と受け止める、そんな彼女の思いが会場に伝わり、ラズベリー賞受賞式の会場はスタンディングオベーションが鳴り止むことはありませんでした。逆境に勇気を持って立ち向かう素晴らしい女優。アメリカの悲しい差別の歴史を持つアフリカの血を継承し、逆境をバネにして前向きに進んでいく姿は、Obama大統領の考え方に通じる共通した考え方であり強さなのだと私は感じます。
笑いが感動を生んだ瞬間でした。
アメリカの笑いのセンスは、時にやりすぎだと感じるかもしれません。しかし、好き勝手を言うのも愛情表現のひとつではないでしょうか。ラズベリー賞も、映画が好きで好きでたまらない連中が開催しているのは事実です。アカデミー賞が、選ばれた実績のある映画業界人の投票によって受賞が決定されるのに対し、ラズベリー賞は25ドルを払えば誰でも投票することができます。悪口にもどこか愛情を感じさせるのがアメリカの笑いの本流、そう私は思っています。だからアメリカのお笑いが大好きなのです。笑いというキーワードから、アメリカという国を少しでも感じていただければ幸いです。
ちなみに……
ちなみに今年のラズベリー賞ですが、映画界最低権威となる最低作品賞は「愛の伝道師 ラブ・グル」(原題「The Love Guru」)が受賞し、その作品で主演を務めた「Saturday Night Live」でもおなじみのMike Myersが最低男優賞を受賞しました。そして注目の最低女優は、Paris Hiltonが独占。まあ、本当に最悪のケースもあるということで……(苦笑)
Peace out,
Eric

筆者紹介
エリック松永(Eric Matsunaga)
Berklee College of Music、青山学院大学大学院国際政治経済学研究科(修士)卒業。19世紀の米国二大発明家Graham Bellを起源に持つ米国最大の通信会社AT&Tにて、先進的なネットワークコンサルティングの領域を開拓。その後アクセンチュアにて、通信分野を柱に、エンターテインメントと通信を活用した新事業のコンサルティングをグローバルレベルで展開する。現在、通信業界を対象にした経営コンサルタントとして活躍中。
イラストレーター: まつなが みか
つぶやく日本人や音楽にまつわる「人」のイラストを描く。CDジャケット、ショップ、雑誌等で活動中。エリック松永の愚妹。