「アプローチを変えたことが最大の難関に活路を開いた」
TOMOYO LinuxがLSMの問題で座礁しかかったとき、惜しむことなく助言を与えていたのが小崎資広氏だ。彼は、その状況を変えたのが何だったのかを語ってくれた。
「あのときのTOMOYO Linuxの最大の懸念事項は、TOMOYO自身ではなく、実はLSMの問題だった。LSMにhookが足りないため、パス名ベースのセキュリティモジュールがLSM上に実装不可能だったというのが実情だ。
しかし、TOMOYOは、当初からLSMの『変更』を提案していた。しかもVFS(Virtual File System:仮想ファイルシステム)に対して関数を定義していたが、それは明らかにTOMOYOしか使用しない関数だった。それをVFSのメンテナであるAl Viroがひどく嫌っていた。
これに対して、アプローチを変えたことが活路を開いた。LSM hookを追加する「introduce new LSM hooks where vfsmount is available」というパッチを提案し、影響が出ないように回避して解決したことが、Al Viro経由で2.6.29-rc1にマージされ、事態が大きく前進した理由だ。
さらに重要だったのは、それを実行する開発者の心の変化だ。技術者が、自分の作るものに対して、100点を目指したい気持ちは理解できる。しかし、それではコミュニティは成り立たないこともある。そこを90点に抑えてでも、他の人が受け入れられるようにしていく必要がある。TOMOYOは、最後の最後で、それを吹っ切ることができた感がある」
「新たなブレイクスルーの原動力として期待したい」
「これまで日本のプロ野球で試合をしていた選手が、メジャーリーグ入りしたようなもの。企業が進めるプロジェクトとして、このような事例が生まれたことは、とても素晴らしいことだ」――吉岡氏は、今回のTOMOYO Linuxの統合への進捗について、こう喩えた。TOMOYO Linuxに対して、今後、何を期待するか聞いた。
「しかし、それはまだ、デビューしたに過ぎない。TOMOYOが本当の意味でのメジャーになるためには、今後ますますプロジェクトの継続的な努力が必要だと思う。しかも、それは非常にたいへんな努力でもあると思っている。その意味は2つある。
ひとつは、今後、さらに高い技術力が求められるであろうこと。そして、それ以上にたいへんなのは、ビジネスと折り合いをつけながら続けていく必要があることだろう。
企業の中では、これらの技術をビジネスモデルとセットにし、ビジネスにつないでいかなければ持続しないことも事実だ。また、技術と新しいビジネスモデルが両輪となってブレイクスルーしていくことが、今の日本にとって一番必要なのではないかと思っている」