工事進行基準を適用するポイントは、プロジェクトの受注金額である「工事収益総額」、プロジェクトの原価予算となる「工事原価総額」、決算日におけるプロジェクトの進捗度合いを表す「工事進捗度」のそれぞれを合理性をもって見積もることにある。2009年4月から工事進行基準が原則適用となるが、そのためにはこれら三つのポイントを高い精度で見積もることができてはじめて「成果の確実性」が満たされ、工事進行基準を適用することができる。
前回までは、そのうちの工事収益総額と工事原価総額についての対応のポイントをまとめた。今回は、三つのポイントのうち、プロジェクトの進捗を表す「工事進捗度」を取り上げ、進捗度を見積もる方法と実務上の対応をまとめる。
“インプット”に着目した原価比例法
工事進捗度とは、工事の進捗度合いを表すプロジェクトの進捗率のことだ。工事進行基準では、原則として工事収益総額に工事進捗度を乗じて各期の売上高を算出するため、工事進捗度の見積もりが、そのプロジェクトにおける各期の売上高と利益の金額に直接的に影響を及ぼす。そのため、工事進捗率の合理的な見積もりは、工事進行基準を適用するうえで欠かせない要素となる。
「工事契約に関する会計基準」によると、決算日における工事進捗度は、「工事契約における施行者の履行義務全体との対比において、決算日における当該義務の遂行の割合を合理的に反映する方法を用いて見積もる」とある。つまり、契約で定められた全体におけるプロジェクト遂行の割合を持って進捗を測定するわけだが、この進捗度の見積もりの方法はひとつではない。
基準には、具体的な方法として「原価比例法」「直接作業時間比率」「施工面積比率」などが挙げられている。どの方法を用いるかで決算日時点での進捗度が変わってくることも考えられるため、開発プロジェクトの実態に基づく進捗を合理的に反映する方法を採用する必要がある。このような進捗度の見積もりの方法は、大きく分けて二つに分類できる。
ひとつが、インプットすなわち費用サイドに着目して、全体の原価予算のうち、どれだけのコストが発生したかによって進捗度を求める方法である。原価の費消割合がプロジェクトの進捗を反映するという前提が成り立つのならば、費用サイドに着目することでプロジェクトの合理的な進捗度合いを測定することができる。この代表的な方法が、実務上も用いられることの多い「原価比例法」である。
原価比例法では、分母に前回取り上げた工事原価総額を用い、分子に決算日までの原価実績の累計額を用いて、全体における原価の費消割合で工事進捗度を見積もることになる。この方法を採用する場合には、工事原価総額の見積金額の見直しを適時に分母に反映させることで、見積もりの見直しの影響を織り込んだ進捗の見積もりが可能となる。この方法を用いる場合には、分子となる原価実績も適切な原価計算に基づく集計が行われることが前提であり、自己流の原価集計による原価比例法の適用は認められないことに注意が必要だ。
このほか、プロジェクト全体の工数を見積もり、プロジェクトの開発全体における決算日までの発生工数で進捗度を見積もる「直接作業時間比率」に基づく方法もある。これも開発者の直接作業時間というインプット側に着目した見積もりの方法と言えるだろう。
“アウトプット”に注目したEVM法
このように、プロジェクトの費用面であるインプット側に着目して進捗を見積もる以外の方法として、インプットではなくアウトプット側すなわち出来高に着目して、進捗度を測定する方法がある。「施工面積比率」なども出来高に着目した方法であるが、ソフトウェアの開発プロジェクトで実務上用いられる方法として、「Earned Value Management」(EVM)という方法がある。
具体的には、まず進捗計画(Planned Value:PV)を立て、そこに実際の進捗状況(Earned Value:EV)や実際のコスト(Actual Cost:AC)をPV曲線と比較し可視化することで、プロジェクトの進捗を管理するための開発現場の管理手法である。これを、出来高に着目したプロジェクトの進捗を把握する方法として、工事進行基準の進捗度の見積もりにも用いるわけである。ただし、この方法を採用する場合は、出来高の把握についての統一的なルールを設定し、対象となるプロジェクトについては、そのルール通りに進捗把握を行う必要がある。
どの方法を採用したとしても、協力会社に開発作業の一部を依頼しているような場合には、その外注作業について、決算日時点におけるプロジェクトの遂行割合を適切に進捗度に反映させる必要がある。ただし、これらは社外の開発作業であるため、コストや出来高を適切に把握するためには、自社におけるプロジェクト管理体制の強化とあわせて、協力企業の進捗管理の体制や、適切な進捗の情報を共有する仕組みが不可欠だ。
この対応のために現在の業務フローの見直しが必要になる場合があり、外注費の出来高査定の体制について頭を悩ませる担当者も多い。このテーマについては、次回、会計監査対応の観点からも詳しく紹介していきたい。
(後編は4月3日掲載予定です)
筆者紹介
木村忠昭(KIMURA Tadaaki)
株式会社アドライト代表取締役社長/公認会計士
東京大学大学院経済学研究科にて経営学(管理会計)を専攻し、修士号を取得。大学院卒業後、大手監査法人に入社し、株式公開支援業務・法定監査業務を担当する。
2008年、株式会社アドライトを創業。管理・会計・財務面での企業研修プログラムの提供をはじめとする経営コンサルティングなどを展開している。