クラウドコンピューティング、そしてプラットフォーム戦争の再勃発 - (page 2)

文:Dion Hinchcliffe(Special to ZDNet.com) 翻訳校正:村上雅章・野崎裕子

2009-04-06 11:22

クラウドコンピューティングは悪魔との契約なのか?

 もちろん、多くの組織はクラウドコンピューティングにつきものの懸念に見合う大きな利点がなければ、その採用を検討しようとは考えないだろう。そういった利点には以下のようなものがある。

  • 規模の経済。これは、商用ソフトウェアとオープンソースソフトウェアのいずれもが、顧客にきちんと提供できていない(少なくとも顧客が自社内ですべてのものを実行するという従来型のモデルにおいては)ものである。これに対して、共有リソースを用いてクラウドコンピューティングという形態を採ったネットワークベースのソフトウェアは、スケーラビリティという価値を創出し、それを顧客に提供するということに長けているのだ。クラウドコンピューティングでは、規模の経済を作り出すことが必須ではない(例えば、実際の配備に先立って内部で開発テクノロジを使用するために用いることも考えられる)とはいうものの、その利点の1つは、可能な限り多くの他の顧客にコストを分散できるということにあるのだ。また、コストはクラウドコンピューティングにおける利点の1つに過ぎないものの、それは最も重要な利点の1つであり、クラウドコンピューティングに関して現在行われている事例調査では20%から10倍以上のコスト削減が一般的であるとのレポートもあるのだ。ここで興味を引きつけられることは、クラウドコンピューティングを用いることで、ハードウェアやソフトウェアのコストから管理、電力、施設、保守、バックアップ、運営にいたるまで、いかに効率的に全体的な規模の経済が生み出されるのかという点である。こういった負担の多くは、顧客がクラウドに移行することで彼らの肩から下ろされ、統合された後、クラウドを提供しているプロバイダーの顧客ベース全体に分散されるのだ。
  • 業務とITのアジリティ。クラウドコンピューティングによって企業は、その組織単独では調達できない、あるいは少なくとも財政的に受け入れられないほどの潤沢なリソースにオンデマンドでアクセスし、活用できるようになる。エンタープライズ規模のデータセンターを丸ごと準備し、配備することも、文字通り苦もなくあっという間に行えるのだ。そして、規模の変更、ダウンサイジング、撤収も同じように簡単に行える。従来からある自社での構築形態だけでなく、ホストのアウトソーシング形態と比較した場合であっても、ほとんどのクラウドコンピューティングが提供しているこういった柔軟性は極めて素晴らしいものと言えるだろう。
     関連する話題として粒度というものがある。今日のクラウドコンピューティングが提供しているものの粒度には大きな違いがあり、コンピューティングパワーという側面を語る際にはそれが特に顕著となっている。サービスの粒度は、リクエストのレベル(「Google App Engine」)から仮想サーバインスタンスのレベル(「EC2」や「Sun Compute Cloud」)までさまざまであることが一般的である(前者よりも後者の方が実質的にレイテンシが高くなる)。なお、あなたが保有しているアプリケーションのアーキテクチャによって、サービスの粒度が持つ重要性は異なってくる。また、あなたが選択するクラウドによっては、アーキテクチャ上の多大な制約がアプリケーションに課されることもある。いずれにしても、組織はこういったアジリティのおかげで、既存のほとんどのコンピューティングモデルを使用するよりもずっと短期間で、新しい機会と業務上の条件(善いものも悪いものも含めて)を活用できるようになるのだ。なお、設備や管理の提供はクラウドコンピューティングのアジリティを支える一部でしかないことにも注意されたい。多くのクラウドコンピューティングプラットフォーム(特にForce.comやGoogle App Engine)は、生産性を指向したプラットフォームとなっており、クラウドの能力を直接活かすソリューションが迅速に開発できるよう、開発ライフサイクル全体をサポートする環境を提供している。
  • ベストプラクティスと能力の中央集中化。クラウドコンピューティングのベンダーは、彼らが提供するものとそのベースになるテクノロジを改善するための累積投資を増やすために規模の経済を利用することができる。また、彼らは自らの設計や方法論、プラクティス、インフラを最新かつ競争力のあるものとするために、一流の人材を惹き付け、活用することもできる。大規模エンタープライズであれば、この種のベストプラクティスを採用することも可能であるが、その場合でも多額の追加コストが発生し、ほとんど常に、コアコンピテンシーとは関係のない分野に投資することになるのだ。一方、こういった点(通常の場合、サービスのコストと直接的な相関関係にある)については、さまざまなものがベンダーから提供されているため、目の肥えたクラウドコンピューティングの顧客は定期的にこういった観点からのデューデリジェンスを実施することになるだろう。

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