総額か純額か
このほかにも収益認識に関する論点としては、売り上げの純額・総額表示についての会計上の考え方がある。たとえば、複数の企業を介するソフトウェア関連取引で委託販売で手数料収入のみを得ることとする代理契約については、そのソフトウェアの販売代金全額を売り上げとして総額で計上するのではなく、手数料の金額のみを売り上げとして純額で計上することになる。
ソフトウェア関連取引で、売り上げを総額で計上か純額で計上するかについては、公認会計士協会から公表されている「情報サービス産業における監査上の諸問題について」における以下のような指標に照らしながら、事実関係と状況に基づいて“総合的に判断”することが求められるため、関連するテーマとして併せて頭に入れておきたい。
(売り上げを総額で計上する指標)
- 取引において主たる債務者(ユーザーに対してサービス責任を負う者)である
- 商品受注前または顧客からの返品に関して一般的な在庫リスクを負っている
- 自由に販売価格を設定する裁量がある
- 商品の性質を変えたり、サービスを提供することによって付加価値を加えている
- 自由に供給業者を選択する裁量がある
- 製品やサービスの使用の決定に加わっている
- 商品受注後または発送中の商品に関して物的損失リスクを負担する
- 代金回収にかかる信用リスクを負担する
(売り上げを純額で計上する指標)
- 供給業者が契約の主たる債務者である
- 会社が獲得する金額は決定している
- 供給業者が信用リスクを負う
今回は、工事進行基準の適用で考えなければならない「認識の単位」というテーマに関連して、IT業界やソフトウェア業界特有の分割検収や複合取引への対応方法、また売り上げを計上するための収益認識についてまとめた。次回からは、工事進行基準とも密接に関連のある原価計算制度とプロジェクト管理体制についてまとめたい。
筆者紹介
木村忠昭(KIMURA Tadaaki)
株式会社アドライト代表取締役社長/公認会計士
東京大学大学院経済学研究科にて経営学(管理会計)を専攻し、修士号を取得。大学院卒業後、大手監査法人に入社し、株式公開支援業務・法定監査業務を担当する。
2008年、株式会社アドライトを創業。管理・会計・財務面での企業研修プログラムの提供をはじめとする経営コンサルティングなどを展開している。