「彼はなかなかの“戦略家”だよ」とか、「わが国の外交には“戦略”が欠けている」とか、有識者による「○○“戦略会議”」とか、「各社の“企業戦略”」とか、「新製品の“マーケティング戦略”」とか、「IT戦略」とか……。とかく世の中では頻繁に「戦略」という言葉が使われる。
こうして見ると、「戦略」を立てるのは、いわゆる「アタマの良い人」で、大学教授やその分野の専門家だったり、中央官庁のお役人だったりする。身近なところでは、会社の経営陣も戦略を立案したりする。一方で、私を含めた、世の中の一般的な生活者が、物事を「戦略的」に考えることはあまり多くないのではないだろうか。
たとえば自宅で家族といっしょに「引っ越し戦略」や「借金返済戦略」を考える人はいないだろう。引っ越しや返済を戦略と表現するのは過剰な気がするし、やはり「引っ越し計画」とか「返済計画」といった方がしっくりくる。
考えてみれば、そもそも「戦略」とはいったい何なのか。根本的なことを理解していなかったことに気がつく人も多いのではないだろうか。ここで改めて、「戦略」の定義と、その本質について改めて考え、その上で、この連載を通じ「戦略的」な思考方法とはどのようなものか、人や企業が戦略的であるために、どのようなツールが利用できるのかを見ていくことにしよう。
「戦略」はどう定義されているのか
まずは基本中の基本から。「戦略」という言葉の意味を辞書で調べてみることにした。広辞苑で「戦略」という言葉は、次のように説明されている。
「戦」という漢字から予想されるとおり、「戦争」にまつわる言葉らしいことが分かる。「政治社会運動」における「敵」と「味方」という例を見ると、どうしても次の総選挙を連想してしまう。実際、「選挙戦」と言うぐらいだから選挙にも戦略はあるはずだ。
「戦略」の複合語を引いてみると、「戦略核」「戦略単位」「戦略爆撃」「戦略物資」といった言葉が並ぶ。
ちなみに、聞きなれない「戦略単位」の意味は「戦略的活動をなしうる最小単位。陸軍では師団」とある。「陸軍」「師団」なのだから、やはり戦略という言葉は、戦争分野の用語から転じて使用されるようになったようだ。
さて、戦略の説明には「戦術より広範な作戦計画」とある。次は「戦術」を調べてみよう。
ということは、個々の戦闘を実行するときの「方策 (はかりごと)」 が「戦術」であって、「戦略」は、いろんなタイプの戦闘を統合し、戦争全体の局面を見渡して、うまく戦闘の機能を活用する方法のことであると理解できそうだ。
整理すると「戦術<戦略」という式が当てはまり、戦略単位の説明からは、戦略が具体的には「師団」クラスの規模感を持つことが分かる。
師団とは陸軍部隊の1つで、「司令部を有し、独立して作戦する戦略単位」と説明されている。つまり、「作戦の基本単位」を実行できるだけの規模を持っている上位の組織ということになる。
辞書の説明に沿って理解すれば、「戦略単位」とは戦略的活動を「なしうる最小単位」のことであるから、少なくとも自立して行動する権限を持つ師団のような組織が行う活動でなければ、「戦略的活動」とは見なされないことになる。組織において、かなり上位の人間が行う作戦計画と言えるだろう。