このとき、男Aにとっては資金が少ない分だけ、「一気」同士の組み合わせで勝つ確率は低い。一方、男Bにとっても、相手が必死に資金をかき集め、より彼女好みの家を建てる可能性があり、リスクの割には勝つ確率は高くならない。従って、自分も「一気」、相手も「一気」という組み合わせは、男Aにとっても、男Bにとってもリスクは最大(リスク=4とする)。この組み合わせは最悪のシナリオだ。
次に、リスクが大きいのが、自分がコツコツ戦略をとったときに、相手が一気戦略をとっていた場合だ。相手に一気にやられてしまって、気づいた時には相手の家は完成し、女Yの心を奪われるかもしれない。今までの努力が水の泡だ。これは2番目に悪いシナリオとなる。
リスク(男A 一気, 男B コツコツ)=(2, 3)「男Aには資金リスクが伴う」
リスク(男A コツコツ, 男B コツコツ)=(1, 2)「男Aのリスクが最小」
そこで、男Bが望むのは、自分は一気にやって、相手が無駄な努力をコツコツ続けてくれることだ(3, 1)。この場合、資金力を生かせる男Bのリスクは最小となり、勝つ確率が高まる。一方、男Aが望むのは、双方ともにコツコツ建てる戦略をとることだ(1, 2)。男Aにとっては資金面の心配が減り、かつセンスが生かせるため、リスクが最小となり最終的に勝つ確率が高まる。
双方がコツコツ戦略をとれば、男Aが絶対的な優位に立てることが分かった。しかし、男Aにとって不幸なことは、自分がリスクの低いコツコツ戦略をとることを、男Bが容易に予想できることだ。男Bに一気戦略をとられると簡単に立場を逆転されてしまう。男Aにとって2番目に悪いシナリオとなる(3, 1)。
ゲーム理論では、これを覆して、男Aが勝つ方法を考える。
まず、男Bが戦略を決する前に、男Aが動くのだ。男Aは先に「私は一気戦略をとる」と宣言する。この行動により、同時進行ゲームは、チェスのように先手と後手が交代で手を進める交互進行ゲームに変わる。
男Aが一気戦略を宣言したことによって、男Bは考える。自分が一気戦略をとった場合、リスクは最大となり、最悪のシナリオになる。そこで、一気戦略は避けてコツコツ戦略をとる(2, 3)。自分のリスクは3と高いが、相手のリスクも2であるからだ。
そのとき男Aは、男Bがコツコツ戦略をとった後で、密かにコツコツ戦略に変更すれば、男Aは絶対的優位に立つことができる(1, 2)。この作戦は、自分の宣言を相手にどれだけ信用させられるかがポイントとなる。また、可能な限りの調査によって、実際に自分と相手が投下できる資金の額をいかに正確に推測できているかも重要だ。
このようなゲーム理論は、戦略的意思決定においてグローバルスタンダードな手法となりつつあるという。「ゲーム理論(Theory of games)」をタイトルに冠した図書も数多く出版されているので、参考にされることをお薦めする。
はたして男Aは「ゲーム理論」によって、男Bをまんまと出し抜き、美貌の女Yの心を射止めることができるだろうか……?
なお、彼女の心をキャッチし、こちらを振り向かせる作戦については、別のフレームワークで考えた方が良いようだ。これについては、次回、取り上げてみよう。