そもそも「連結経営」とは何か?--損益計算書と貸借対照表の“微妙”な関係 - (page 3)

森川徹治(ディーバ)

2009-07-08 08:00

 たとえは悪いが、資産家の大家族でなんらか事情があり、いざ資産相続という場合、法律で定めがあってもなかなか円満に終わらないものである。資産相続が頻繁に起こるとますます混乱する。本業に集中するためにも、資産というものは、もう少し安定した箱に入れておくものである。

 資産を分けるには資産目録が必要だ。物理的に目の前にある場合を除けば、目録がなければ分けようがない。つまり、事業資産の配分を行うには、企業の財産目録であるB/Sが必須ということになる。

連結経営における“自治”とは?

 話を連結経営に戻そう。連結経営とは資本関係を根拠とした企業集団に対する経営である。つまり、連結経営の主体となる親会社は最大株主である。

 株主として考えれば、利回りに対する意識が重要になる。利回りを重視して経営を行うのか、それとも売り上げ、収益にまで踏み込んで経営を行うかはガバナンスポリシーの問題であるが、会社として独立させている以上、その会社に高度な自治を認めているということである。  企業内で行われる分権や権限委譲の話ではない。独立した自治を与えるか否かである。

 連結経営における自治とは、(人材ではなく)“人財”を含む事業資産の配分を自らの意志で決定できるということである。連結経営を実践している企業では、親会社が事業資産の配分まで手を出そうと考えた場合、吸収合併する。

 吸収合併とは、吸収されたグループ会社にとってB/Sに対する自治の喪失を意味する。B/Sの喪失は、財務諸表上に乗っている資産項目への自治権喪失にとどまらない。最大のオフバランス資産(財務諸表数値に反映されない資産)である“人財”に対する権利、つまり人事権も失うことになる。

 親会社がグループ会社へ大きな自治を認める場合、連結経営の視点では、その企業が、企業グループ全体の戦略にとって価値のあるものかを常に判断していく必要がある。グローバル経済環境における競争の激化により、ますますこの判断が大切になる。

 事業戦略とは、会社という単位ではなく、事業という単位で考える。グループ内にさまざまな事業を営む企業がある場合、グループとして何をのばし、何を捨てるのかという判断である。

公僕の視点が必要

 企業は星の数ほどある。日々、新たな企業が生まれ、一方で消滅している。事業領域として持続発展するものであっても、事業環境の変化により企業そのものの栄枯盛衰はつきものだ。

 預かった事業資産をどの市場にポジショニングするか。これこそがまさに、経営の仕事である。連結経営とは、企業グループ全体をいかに導くかを考え、成長分野へは積極的に投資し、そうでない場合は資産の毀損をできるだけ最小限にとどめるというものである。

 日本で本格的な連結経営を実践している企業はまだまだ少ない。これまでやってこなかった連結経営を実践すると、ある時期、相当の企業の買収、売却、吸収合併が起こる。

 しかし、さまざまな苦難を乗り越え、連結経営の実践に取り組む企業は強い。グローバル社会の要請を理解し、自己変革を自らの意志で取り組んでいる企業の未来は十分に信じることができる。

 今回の終わりに一つだけ付け加えておこう。それは、連結経営そのものが価値を生み出すものではないということだ。事業価値の創造は現場で行われる。連結経営とは、その現場がいかんなく力を発揮する環境を整えるものに過ぎないということである。連結経営にかかわるものは、“公僕”の視点が欠かせない。

筆者紹介

森川徹治(MORIKAWA Tetsuji)

株式会社ディーバ代表取締役社長。1966年生まれ。1990年中央大学商学部卒。同年プライスウォーターハウスコンサルタント(現IBMビジネスコンサルティングサービス)入社、経営情報システムなど企業情報の活用に関わる多数のプロジェクトに関わる。1997年、株式会社ディーバを創業。以来、連結会計システムをはじめ企業の持続的な成長を支援するグローバル経営会計情報システムの創造と普及に取り組んでいる。

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