世界大会で4人が得たもの
世界大会で結果は残せなかったものの、Imagine Cupに出場して得た経験は、彼らにとって勝敗以上に意味があるものだ。長田氏は、「現段階で自分が成長できたかどうかはまだわからない」と冷静に自分を見つめつつも、「これからの人生の中で、今回の経験が生きていくことは確かだ」と述べる。

他のメンバーも、今回の大会参加で学んだことは少なくない。宮内氏は、「これまでこのような長期の開発プロジェクトに関わったことがなかったので、開発の勉強になった。そして、世界レベルのプレゼンテーションを体験できたのもよかった」と話す。佐藤氏は「本格的な組み込み開発の手法が学べた」と、開発者としての成長を感じ、有賀氏は「初めて複数人数でのモノ作りを経験した。みんなで開発するにあたってはコミュニケーション能力の必要性も感じた」と話す。
次のステップに向けて
CLFSのメンバーは、今後別々の進路に進むことになる。専攻科2年生で大学卒業と同等の資格を得る長田氏、宮内氏、佐藤氏のうち、宮内氏は就職が決まっており、佐藤氏は電気通信大学大学院に進学予定だ。長田氏は、大学院に願書を出したばかりで、その試験に向けて勉強中。チーム内で唯一5年生の有賀氏は、専攻科に進むことが決まっている。

Imagine Cupに今後も参加したいかとの問いに、佐藤氏は「大学院ではロボット研究に進むため、今後Imagine Cupに挑戦するとすればロボティックス部門にチャレンジしたい」と話す。有賀氏は、「新しくメンバーが集まればまた参加したい。今後のチームは技術力だけではなく、Imagine Cupのテーマについてよく知っている人を巻き込む必要があるだろう」と、今回の経験を踏まえて語る。
一方長田氏は、将来の参加について、一瞬の間を置き「まだわからない」と述べる。「日本は開発力で劣ってはいないものの、Imagine Cupではテーマに合ったソリューションを提案する必要がある。そのようなソリューションが思いつくかどうか現段階ではわからない」というのがその理由だ。ただし、「もし自分の方向性と合うようであれば、また力試しに挑戦してみたい」と長田氏は言う。
長田氏の考えは、冷静であり、方向性としても正しいと言えるだろう。Coulson-Watanabe氏も「Imagine Cupのために作品を作るのではなく、社会のためにこの作品を作りたいという考えの方が大切だ」と述べている。
CLSFのメンターとしてメンバーを最初から最後まで支援し続けた東京工業高等専門学校 教授の松林勝志氏は「他の国では、数年かけて研究したプロジェクトでImagine Cupに出場している国が多かった。今回われわれは数カ月準備しただけで出場となったが、作品のアイデアは悪くないので、同じテーマをよりブラッシュアップできればと思う」と話す。
CLSFのメンバーは別々の道に進んでも、彼らの開発した電子母子手帳は、それぞれの心の中の母子手帳に思い出と経験というページを残した。それは、今後の彼らの成長の過程で忘れられない1ページとなるだろう。