SaaS業界の現場の人間の多くは、フリーミアムがSaaS業界の主流なビジネスモデルであるというAnderson氏の発言を聞いて驚いただろうと思う。ZohoやGoogle Apps、Adobeがすべてフリーミアムモデルを導入していることを考えれば、この主張は生産性ソフトウェアベンダーについては正しいかも知れないが、Salesforce.comやNetSuite、SuccessFactorsといったトップクラスのSaaSアプリケーションベンダーのビジネスモデルには、フリーミアムの要素はまったく見あたらない。フリーミアムはどこにでも当てはまるものではないのだ。しかし、Anderson氏の本には、われわれ全員が意識しておくべき2つの重要な動向が説明されている。
- コンテンツとソフトウェアをオンラインで配布するコストは、ゼロに近いところまで落ちている。これは、印刷メディア業界、エンターテインメント業界、ソフトウェア販売業界など、これまでの流通コストが高かった時代に合わせてビジネスモデルが設計されている企業にとっては、非常に破壊的だ。マス市場に訴えられるソフトウェアは、(開発、運用、サポート、維持が簡単である限りは)顧客への配布にかかるコストがほぼゼロになっており、これは過去にベンダーが顧客に請求していた高い価格と快適なマージンが一掃されつつあるということを意味している。
- 今後一部の種類のソフトウェアは、SaaSで提供され、利用時には無料になる。流通コストがほとんどゼロになることで、新たなベンダーは無料で商品を提供するためのコストをカバーする3つの代替収益源のうち1つ以上に頼ったビジネスモデルによる市場への参入が可能になる。これらの新たな競合相手の中で、もっとも破壊的なのは、高価値あるいは高利幅の代わりの収益源を見つけることができた企業だ。なぜなら、従来のベンダーが伝統的に高い対価を要求していたのに対し、この代わりの収益を市場で低価格あるいは無料のソフトウェアを提供するための原資とすることができるためだ。
以下に、3つの代わりの収益源を示す。
- 広告。Google Appsに見られるように、押しつけがましくない広告は、それがアプリケーションの無料利用の原資と受け取られる場合には、ビジネス利用の場においても受け入れられるように見える。ただし、SaaSベンダーが注意すべきなのは、Googleでさえ、そのコストを賄えるほどの収益を上げられているという確かな証拠はないということだ(他の広告を原資としたアプリケーションは言わずもがなだ)。
- フリーミアム。より幅広いマーケットに到達するために無料版を配布すると、その一部の顧客が上級のサービスに対して金銭を支払うことを決めるという手法は、すでに確立されている。この方法は、一部のオープンソースベンダーと、37signalsやBox.netなどのマス市場に訴えることのできるSaaSベンダーについてはうまくいっている。以前の記事で議論したとおり、十分な上級サービスへの転換率を得るための秘訣は、正しい無料ユーザー層をターゲットにするということだ。フリーミアムがSaaSのデフォルトのビジネスモデルだというAnderson氏の意見には同意できないが、まだこの方法が持つ可能性のすべてが明らかにされたわけではないということについては賛成する。
- シンジケーション。この名前でよいかについては自信がないのだが(何か別の名前で呼ばれるようになるかもしれない)、これは3つの方法の中でもっとも発展度が低いものだ。しかし私はこれがもっとも高い潜在力を持っていると考えている。シンジケーションという言葉で私が意味しているのは、アプリケーションの中でサードパーティのサービスを提供し、販売手数料を取るということだ。私は以前これを広告と対比させてプロモーションと呼んでいた。これは、小売業界が販売促進と呼ぶものにも似ている。この方法を採用している例としては、SlideRocketやSmartRecruiters.comなどを挙げることができるだろう。SlideRocketは、用意しているプラットフォーム上で作成するスライドショーの中で使えるように、画像や音楽、マンガなどのメディアオブジェクトを販売している。またSmartRecruiters.comは、小規模企業向けの無料のオンライン求人アプリケーションで、求人情報掲示板の設置や経歴照会などの、アプリケーション内の付加的なサービスを再販することによって資金を得ている。私は最近、SmartRecruiters.comの最高経営責任者(CEO)と一緒に、このモデルに関するポッドキャストを録音したところだ。彼は2009年6月にアムステルダムで開催された、OnDemand Europeというカンファレンスで、私が司会を務めたSaaSの収益化に関する非常に興味深いパネルディスカッションに参加した。そこでの議論の動画が、オンラインで見られるようになっている。
私の考えでは、われわれは現在、将来一部のアプリケーションに関するゲームのルールを変えるだろう新しいモデルがテストされているという、興味深い分岐点に立っている。しかし、幻想を抱くべきではない。算数のルールは変わっていない。無料でものを配るというのはビジネスモデルではない。それは、慈善事業であるか、商売上の作戦であるかのどちらかだ。もし後者ならば、マーケティングによって顧客が集まり始めた後でも、継続的に収益を得る手段を用意しているべきだ。でなければ、極めて慈善精神が旺盛な金づるを探しておいた方がいい(もしそんなものが存在すると思っているのであればの話だが)。
この記事は海外CBS Interactive発の記事をシーネットネットワークスジャパン編集部が日本向けに編集したものです。 原文へ