ITは組織の戦略実行を支援してきたか?--システムの分断が不幸の始まり

梅田正隆(ロビンソン)

2009-07-24 23:48

 この連載(不況を生き抜く「戦略立案」の基礎)では、前回まで、ビジネスの現場で戦略を立てる際に知っていると便利なフレームワークや理論について見てきた。今回からは組織における戦略の立案、実行、評価といったサイクルを回していく上で有用なITについて考えていくことにしよう。

業務システムと分析計画システムの不幸な別離

 「コンピュータ経営」におけるコンピュータシステムは、マネジメント(経営者層)が意思決定を行うに当たり、適切な情報を組織的に収集し、加工し、蓄積して、マネジメントの要求に応じて直ちに提供する機能を持つもの、と考えられていた。

 すでに40年以上も前から、組織の各管理層に対して「それぞれの必要性に適応した情報を、いつでも、どこにでも提供するシステムが必要である」との議論がなされていた。時が過ぎた今でも、求められることはほとんど変わっていない。ある意味で、当時の議論の方が企業におけるコンピュータシステム全体を良く俯瞰して捉えたものであった、とも言える。

 しかし、それ以降、業務個別の応用システムの開発に多くの注目が集まるようになり、それらの応用システムが蓄積したデータを用いて、将来予測のための分析や計画を支援するDSS(Decision Support System:意思決定支援システム)は、応用システムとは区別されて議論されるようになっていった。

 ご存じのように当時のDSSは、今日のBI(Business Intelligence)に近いシステムである。いわゆる「業務系システム」と「分析計画系システム」は、本来一体で議論されるべきだったのだが、両者の不幸な分裂は、応用システムの高度化によって起こったと言えるのかもしれない。

 この分裂は「データの使い手が誰なのか」の違い、すなわち「ユーザー」と「情報システム担当」との分裂とも言い換えることができそうだ。

業務系システムと分析計画系システムの分離 業務系システムと分析計画系システムの分離

「人」の意思決定と「組織」の意思決定の違い

 さて、ITそのものを見る前に、戦略立案に影響を及ぼす、組織における意思決定について少し考えてみよう。企業は複数の人によって構成された組織であるから、企業は組織に属した人の、意思決定と行動によって運営されている。その人の意思決定を左右するのが情報だ。つまり、意思決定というプロセスは、情報を行動に変換するプロセスと言える。

意思決定プロセスのイメージ 意思決定プロセスのイメージ

 意思決定プロセスにおける問題として指摘されているのが「Garbage-In, Garbage-Out (GIGO) 」である。

 人は情報から意思決定プロセスを経て、決定し、行動に移す。このとき適切ではない情報しか手に入らなければ、適切な決定あるいは正しい行動を起こすことはできない。GIGOは「入るものがガラクタならば、出てくるのもガラクタ」という意味だ。

 逆に、正しい情報を得たとしても、意思決定プロセスが貧弱である場合は、正しい決定と行動にはつながらない。人においても組織においても、正しい意思決定がなされるためには、適切な情報と優れた変換プロセスが欠かせないということだ。

 では、人 (個人) の意思決定と組織の意思決定の違いは何だろう。それは、組織における意思決定は、しばしば意思決定を行う人と、決定を受け実行する人が異なるという点だ。

 意思決定する者は、実行する人に決定した内容をよく理解してもらう必要があり、また実行した結果についても、意思決定した者は実行した人からフィードバックしてもらう必要がある。従って、そのための仕組みが必要になる。

求められるのは「いかに正しい意思決定をするか」

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