顧客のニーズを知り、業界の先を走る--ヘルスケア業界に見るIBMの成功の秘密 - (page 2)

文:Noah Buhayar(Special to BNET) 翻訳校正:石橋啓一郎

2009-07-28 13:31

ヒント2: 顧客の本当のニーズを見極める

 ヘルスケアの将来に対するビジョンを図式化することで、IBMは顧客の問題とニーズに関する話題に再び焦点を合わせることができるようになった。IBMのEastern Region Solution Sales部門のバイスプレジデントであるPatrick Byle氏は、IBMは以前、ヘルスケアの顧客に対してテクノロジーの話をしていたと説明する。今では、同社はヘルスケアに関する幅広いビジョンを使って売り口上を作っているが、これは潜在顧客に対してはより適切なものだ。

 Medicaidを例に取ってみよう。この米国の行政によるヘルスケア政策には、申請のふるい分け、機密性の高い健康情報の共有、支出の追跡に膨大な量のITを必要とする。これは、IBMの専門性に対してはもってこいの案件だった。しかし、Boyle氏によれば、IBMの営業チームの官僚に対する売り口上は、サーバーやネットワークから始まるものではなかったという。「ある州の保健福祉サービスの責任者は、ビットやバイトには関心がなかった。彼らが気にかけていたのは、彼らの州に住む人たちの健康だった」(Boyle氏)

 これが、Boyle氏が部下の営業スタッフに対して、官僚にMadicaidが予算に与える負担について尋ねるようにと言っている理由だ。もし営業チームにそれができれば、Healthcare 2015やMedicaidのような政策をより効率的にするIBMのアイデアから話を始められるはずだと同氏は言う。この議論が、IBMの製品やサービスがコスト削減にどのように役立つかという絞り込まれた売り口上につながる。

 Boyle氏は、このアプローチは政府機関以外の場所でもうまくいくと話している。IBMのHealth Care and Life Sciencesグループは、保険会社や大病院に対してアプローチする際にも、この戦略を使っている。そして、IBM全体としても、CEOのLouis Gerstner氏が1990年代に同社を業界単位で再編成して以来、顧客のニーズに合わせた売り口上を作ってきている。

 Boyle氏によれば、この戦略はより不景気の時期には重要性を増すという。顧客が支出できる額が小さくなっているため、営業スタッフが自社の製品やサービスが、競合他社のものよりもよく、速く、安いことを明確に述べることに対する必要性は高まっている。「顧客のもっとも重要な事業活動について理解することは絶対に必要」であり、提供する価値を、顧客が直面している課題に合ったものにしなくてはならないとBoyle氏は言う。

ヒント3: 常に業界の先を走る

 不況の時代に何かを売ることのもっとも難しいことの1つは、顧客のニーズが急速に変化するということだ。IBMのHealth Care and Life Sciencesグループでは、営業スタッフに対するヘルスケア業界についての教育を続けると同時に、イベントやニュースレター、ネットワーク作りなどを通じて潜在顧客と交わらせることによって、営業スタッフが時代の先を走れるようにしている。

 「われわれは膨大な量の教育に出資している」と話すBoyle氏は、毎年スタッフに対して2週間の集中終日トレーニングを実施している。営業スタッフは、IBMの最新の製品やサービスに関する訓練を受ける。顧客は常にやってきて、直面している困難について話していく。それらの出来事すべては記録されオンラインに蓄積されて、いつでもどこでも閲覧し、再検討できるようになっている。

 2009年米国再生・再投資法(American Recovery and Reinvestment Act)が署名されると、Boyle氏は取り組みをもう一歩先に進めた。同氏は今では、連邦政府の景気刺激策による投資が、州や地方政府の予算に与える影響について毎週トレーニングの授業を行い、IBMのすべての営業スタッフが、連邦政府の7870億ドルの使途を確実に知っているようにしている。

 Boyle氏はまた、営業スタッフが業界動向について行けるよう、彼らに医療情報管理システム学会の地方支部や、その他の専門団体に加盟することを奨励している。

 IBMはヘルスケア業界のIT動向に関するウェブベースのセミナーをスポンサーしたり、定期的に電子ニュースレターを発行したりすることを通じて、潜在顧客とオンラインで交わっている。IBMのCotter氏は、ヘルスケア業界の課題に取り組んでいるヘルスケアの専門家と交わるため、LinkedInにフォーラムを作っている。今ではこのフォーラムに2000人ものメンバーがおり、このフォーラムで生まれた話題や手がかりは、速やかに適切な営業チームに伝えられるようになっている。「顧客は、営業スタッフがドアを叩いて回ることで得られるよりも多くの情報を、ネットワークから得ている。われわれは彼らと対話を続け、戦略を素早く進化させていかなくてはならない」とCotter氏は述べている。

 このように顧客と常に接触していることが、景気が悪化しているにもかかわらず、IBMのHealth Care and Life Sciencesグループの売上が成長を続ける役に立っている。「顧客はIBMが敏感に動く企業だとは思っていない」とPelino氏は話す。「私はそれが間違いであることを、ヘルスケアとライフサイエンスで証明したと思う」(Pelino氏)

この記事は海外CBS Interactive発の記事をシーネットネットワークスジャパン編集部が日本向けに編集したものです。 原文へ

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