今回から、戦略を支えるITツールについて考えていく。まずは、次の文章を読んで、その意味するところがなんなのか、各自イメージしていただきたい。
「トップダウンだけの組織は、KPIが予算と化し、全体戦略が無視されてしまう。そのため個々の活動のシナジーが生まれにくくなり、結果として組織全体のパフォーマンスは低下する傾向にある」
この文章、実はマイクロソフトのサイト上にあった文章の一部を抜き出したものだ。その意味するところを知るべく、まずは同社に取材することにした。
本特集の第5回目(「わが社の業績が上がらないのは何故だ!」--その理由を論理的に考える方法)では、「奇妙な意思決定」が現実に行われている外資系ベンダーの例を紹介した。実際に、リーマンショック以降、著名な企業が景気悪化の影響を受け、トップダウン方向の力ばかりが非常に強く働いている気がしてならない。この文章は、そうした傾向に警鐘を鳴らすものなのだろうか?
戦略の共有なき現場は予算に支配される
先に紹介したフレーズの元になった文章を書いたのが、マイクロソフトでエグゼクティブプロダクトマネージャを務める米野宏明氏だ。これは、企業の「パフォーマンスマネジメント」に関する議論の一部であるという。米野氏はこの議論について、次のように補足する。
「しばしば、“戦略の大部分は成功裏に遂行されない”と言われる。そこに戦略と遂行の分断があるからだ。現場に戦略の共有がない状態で、ターゲットの数字だけを監視すると、予算が人の行動をコントロールするようになる。そうなると、それ以上のパフォーマンスは出てこない。戦略遂行のための行動が抑制されてしまう」(米野氏)
経営層によって「中期経営計画(中計)」という経営戦略が策定され、業務マネジメント層によって「予算」という業務計画が策定され、現場でその計画が遂行される。これが一般的な戦略遂行の流れだろう。
ところが現実には、ほとんどの企業では数年ごとに策定する中計と、年度ごとの予算は連動しておらず、予算は予算として立案されている。中計はインクが乾かないうちに棚の中だ。
さらに、予算と現場のかい離もある。予算は年度の初めに策定されるが、現場の環境変化のスピードが速いために、年度の半ばでも予算策定時の前提条件は往々にして崩れる。予算はすでに現実と合わなくなっているにもかかわらず、予算を変更するのが厄介であるために、現場からは声が上がってこない。これは実に不幸な連鎖構造である。