新しい戦い
Google対Microsoftは、新しいビジネスモデルによる旧いビジネスモデルへの挑戦である。かつてはハードウェアのおまけとして無償であったソフトウェアを有償化して、ソフトウェアのビジネスを打ち立てたのはMicrosoftである。しかし、そのソフトウェアそのものを無償とし、広告ビジネスを収益源とするビジネスモデルを打ち立てたのがGoogleである。
このようにソフトウェアを取り巻くビジネスモデルが変遷するのは、コンピューティングリソースに関わるコストの低下と、それらにアクセスするためのインフラ整備によるものだ。つまり、ハードウェアそのものに付加価値がある時は、ソフトウェアは付属品であった。
しかし、ハードウェアがコモディティ化する中で、ソフトウェアにビジネスの中心が移行した。そして、オンラインでソフトウェアへアクセスする環境が整うと、ソフトウェアそのものではなく、そこへ集まる人の流れを利用した新しいビジネスを考えることができるようになった。その一形態が広告モデルと捉えることができる。
これは、ソフトウェアに対抗してソフトウェアを提供しているのではなく、ソフトウェアを活用したビジネスモデルを革新しようとするものであるという点において、Googleは、旧来型のソフトウェアビジネスには予想もつかない新型兵器による攻撃を行ったものと言える。
旧い戦い
一方で、旧い戦いも続いている。サーバ領域においては顧客をスイッチングさせるのは容易ではない。一度あるOSの上で開発されたビジネスアプリケーションを他のOSへ移植するのは非常に面倒だからである。それだけに、買収などである特定のサーバ製品の先行きが不透明になったりすると、競合ベンダーは一斉に乗り換えキャンペーンを実施したりする。
最近であれば、Sun MicrosystemsがOracleに買収されたことから、Solarisの将来に不透明感が漂った。競合するベンダーとしては、この機に乗じない手はない。日本HPは「Solarisマイグレーションプログラム」を展開中だし、IBMはNovellと移行支援プログラムを開始した。IBMはRed Hatとも移行支援プログラムを展開しているが、当初Sunの交渉相手であっただけにマイグレーションに掛ける執念も強力だ。
しかし、こうしたマイグレーションプログラムによるサーバ製品間の戦いというのは、古くから存在する。つまり、通常であれば高いスイッチングコストを、何らかのインセンティブスキームをセットすることで押さえ込もうというものだ。移行に関わる評価などは通常無償で提供される。かつて、HPが1998年にDECを買収した際も同じようなことが起きている。つまり、これはOracleにとっても十分に予想が付く旧型兵器による攻撃だ。
では、エンタープライズ領域というのは全く進歩がない世界なのだろうか。いや、そういうことではない。今回攻撃を仕掛けているのはHPやIBMであるように見えるが、そもそも攻めに出たのはSun Microsystemsを買収したOracleの方であり、HPとIBMはそれに対して反撃に出たに過ぎない。
一方、OracleによるOSやハードウェアの獲得は、ソフトウェアレイヤからインフラレイヤの垂直下降統合であり、HPやIBMとはむしろ逆方向へ向けた動きを見せたこととなる。これが結果的にどう展開するのかはまだ見えないが、実体は新型兵器による攻撃であり、どう対応すれば良いのか判らないので、とりあえず旧型兵器で応戦してみたという風に見える。SunがOracle陣営に組み入れられた今、IBMやHPとの戦いはまだ前哨戦が起きている過ぎないが、これからどのような展開になるのか楽しみである。
筆者紹介
飯田哲夫(Tetsuo Iida)
電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。
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