問われる「経営力」--変化にあわせて進化する企業統治の“真髄” - (page 3)

森川徹治(ディーバ)

2009-08-26 08:00

 3分の1以下についても、業務提携や買収防衛の手段として株式の持ち合いが一般的に行われているが、保有する側の視点からは先にも述べたように純投資以外の意義は薄い。むしろ、保有される側のガバナンスの安定を高めるものと考えるとわかりやすい。

 業務提携における資本関係の締結とは、利害関係をともにするということを示唆しているが、本来は利害関係を共有することで、お互いの利益を最大化するためのものであるにもかかわらず、融通の利く大株主の獲得という視点が強くなりすぎると相互の利益最大化に寄与しない場合も少なくない。保有される側は、融通の利く大株主に対して甘えることなく、適切な株主還元を実施していくことが欠かせない。

 上記の視点をもってグループ企業の資本政策を見てみると、グループ企業に対するガバナンスポリシーの個性がよく見えるようになる。グループ会社の資本の増減により、これから重視していく事業領域が何かという点も浮き彫りになる。

 連結経営の実践行動は資本政策と連動する。既存事業を育成することで企業が成長していく「オーガニックグロース」による連結経営は、それほど大きな資本変動は起こらないが、連結経営への取り組みが本格化するに従い、資本変動は通常の事業活動の一環として行われるようになる。

ガバナンスは個性

 連結経営のガバナンス主体が、純粋持ち株会社であっても事業持ち株会社であっても、異なる会社に対して、株主総会における議決権に基づく経営権を持ってグループ化し、一体となった経営を推進することには変わりはない。しかし、その統治方法、つまりグループ企業に対するガバナンスポリシーについては高度なガバナンスシステムをもって中央集権的な経営を行う場合と、各社の自由裁量に委ねるオーガニックグロースの二極の間に、それぞれのポジションを置いている。

 経営を、徹底した管理を通して最大の結果を獲得するものであるとの考えもあるが、各社の自由裁量を活かして統治する方法もある。連結経営は、グループ会社“管理”ではなく、グループ企業に対する“統治”であり、特定の統治方法があらゆる連結経営にとって最善とは限らない。事業が急成長している状況では、事業成長そのものがグループ企業に対する求心力となり、事業資産は再配分する余裕すらなく、事業発展のための新たな事業資産を獲得することに注力することが結果的に全体最適となる。

 一方、事業成長が踊り場にさしかかり、中核事業の発展が見込めなくなった場合は、果敢に事業資産の再配分を行うことが求められる。つまり、連結経営といっても、事業環境を含む自社の経営環境の変化とともに常に変革を求められる領域なのである。

経営力の時代

 現在の日本は、先の独禁法改正の背景もあり、急速に純粋持ち株会社が増加しているが、純粋持ち株会社は、コーポレートガバナンスによってグループ企業の事業発展を実現するものである。事業中心のガバナンス以上に、ガバナンス力、つまり経営力を必要とするものである。

 経営力の向上には、企業としての経営的成熟度も要することを考えると、事業規模や業種によって差があるとしても、容易に運用できるものではない。事業持ち株会社として十分な経営的成熟を遂げ、かつ事業環境変化に対する必然性が両立して初めて機能するものかもしれない。連結経営が統治力をもってグループ企業の発展を実現するものであるとするならば、事業環境が複雑さを増す時代、連結経営という経営力の差別化も企業の重要な競争優位となる。

筆者紹介

森川徹治(MORIKAWA Tetsuji)

株式会社ディーバ代表取締役社長。1966年生まれ。1990年中央大学商学部卒。同年プライスウォーターハウスコンサルタント(現IBMビジネスコンサルティングサービス)入社、経営情報システムなど企業情報の活用に関わる多数のプロジェクトに関わる。1997年、株式会社ディーバを創業。以来、連結会計システムをはじめ企業の持続的な成長を支援するグローバル経営会計情報システムの創造と普及に取り組んでいる。

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