ビジネスの破壊者--「Google Bank」はアリか?

飯田哲夫(電通国際情報サービス) 2009年08月31日 12時00分

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 ビジネスの破壊者は突然訪れる。それは、われわれがビジネス領域の定義を見直し損ねたことによることが多い。ビジネススクールなどでは例として、航空業界を取り上げられる。JALの最大の競合がANAであることは当然であるが、それはJALのビジネス領域を航空業界と定義したときのことである。

 しかし、JALは一方で東京−大阪便では新幹線や、高速道路とも競合している。もし高速道路が無料化されたら、その影響たるや甚大であろう。このように、新幹線や高速道路も競合にきちんと含めるためには、JALは自らの事業領域を航空業界ではなく、運輸業界と捉える必要があるわけだ。

ビジネスの破壊者としてのGoogle

 JALの例を当然だと思われる方は多いだろう。しかし、Googleが検索エンジンの提供会社に過ぎなかったときに、「広告」というビジネスが、広義には「検索」、つまり消費者が何かを見つけることを支援するビジネスだと思った人はいなかった。Googleの創設者たちですら、そう思っていなかった。

 従来であれば、企業が代理店の提供する4大メディアの広告枠を利用してメッセージを発信するのが広告であったが、ネットによって情報の非対称性が崩れる中、消費者は一方的に情報を受領するのではなく、自ら探査する力を持つようになった。この変化の中で、広告ビジネスの定義が変わりつつある。

 同じように、「ソフトウェア」というビジネスが、広義には「コンテンツ」、つまり消費者がオンラインで利用するメニューのひとつであり、それが「広告」ビジネス、あるいは「検索」ビジネスの一部に組み入れられるとは誰も考えなかっただろう。個人のPC環境が大きく進化する中で、消費者向けのソフトウェアは、もはやわざわざ買ってくるものではなく、オンラインで無償提供されるものへと変わりつつある。そこには、複製コストと配布コストをかけずに多くの消費者へアクセス可能なネットの力があったのは間違いない。

Googleが金融サービスへ参入するか?

 LendingTreeというローンの金利比較サイトが、自らにそのエンジンを提供しているベンダーであるMortechを訴えた。その内容は、Mortechが、LendingTreeとの契約に違反して、Googleと類似サービスを立ち上げようとしているというもの。これによって、Googleがローン金利の比較サービスを始めようとしていることが明らかとなった。

 このサービス自体が画期的であるというわけではない。しかし、Google自体はすでに「Google Checkout」というサービスで、消費者向けのEC決済の領域へは進出している。つまり、Googleは、すでに金融周辺領域ではビジネスを行っており、じわじわとその領域を広げようとしているように見える。

 では、「Google Bank」はアリだろうか? アイデアとしては面白いが、いかにもなさそうである、というのが一般的な印象だろう。しかし、当初は広告業界もソフトウェア業界もGoogleを脅威とは感じていなかったことを忘れてはならない。

 最近では、iGoogle上に銀行のステートメントや残高を表示することを可能にするソフトウェアなどが注目を集めている。これも、金融サービスを、オンラインバンキングなどの囲われた領域に置いておくのではなく、消費者を取り巻くサービスの一つに位置付けようという試みである。

コンテンツとしての「バンキング」

 オンラインバンキングというのは、言うなれば警備員が入口にたくさん立っているビルに、何度もIDカードを見せながら入れてもらうようなもので、余程の用事がなければ立ち寄りたいとは思わせないサービスである。一方で、オンラインのコンテンツというのは、先ほどの「広告」や「ソフトウェア」と同様に、すべてが消費者中心に回り始めている。つまり、企業側が一方的に何かを提供し、それを見てください、使って下さいというのは通じなくなっているのである。

 そう考えると、「バンキング」というのは、消費者から見るとオンラインで利用可能なコンテンツの一つに過ぎず、もし銀行側がその視点に降りることができなければ、そこには「Google Bank」の可能性が常に存在しているということになる。果たして、その主体がGoogleであるかは分らないが、ビジネスの破壊者は常に突然訪れることは変わらない。

 さて、最後に宣伝ですが、いよいよ飯田哲夫の個展「Ambivalent Images」が9月1日から始まります。ITの話ばっかりで飽きたら、是非お立ち寄り下さい。詳細はこちらまで。全くエンタープライズではありませんのでご安心下さい。

筆者紹介

飯田哲夫(Tetsuo Iida)
電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。
※この連載に関するご意見、ご感想は zblog_iida@japan.cnet.com までお寄せ下さい。

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