「Job Description」を作成していますか?
整理解雇の4要件のうち、日本の企業において一番満たしにくいと考えられるのが3つめの「被解雇者の選定」の要素だろう。使用者側が「客観的で合理的な基準」を設定し、その基準に照らして公正に人選を行ったかどうか、を問うているからだ。
ここで解雇に至る選定の基準となるのが、その人の「業績」だろう。従って、その業績は客観的で合理的な評価基準のもとに、公正に判定されていなければならない。すると、どのような指標が業績の評価基準となるのかが、使用者側からあらかじめ明示され、その指標について目標が設定されているはずである。被解雇者においても、どのような職務を、責任を持ってなすべきかが、マネージャーから提示されているべきと考えられる。
そうした客観的で合理的な評価基準の1つとしては、「職務記述書 (Job Description) 」が考えられる。しかし、日本では職務記述書を作成していない企業が珍しくない。職務記述書とは、その人が配置されたポジションにおいて期待される機能が、きちんと機能するために必要な職務内容を分析し、リストアップしたものである。
しばしば「その人の仕事内容を記述してしまうと、記述されていない仕事はしなくなるから危険だ」と心配する人がいるが、それは誤解である。職務記述書は人ごとに個別に記述するわけではない。ポジションに期待されている機能が同じなら、誰がそのポジションに就いても記述内容が変わることはない。
さて、職務記述書は次のように活用する。職務記述書によって職務内容と責任を明確に示してやることにより、その人の業績と職務責任とのギャップを理解させる。また、その人のゴールを設定したり、ギャップを埋めるためのトレーニングを計画したり、給与や賞与を決定するのにも役立つ。職務記述書とは、部下を直接管理するラインマネージャーにとっては欠かせないものと言えそうだ。
この職務記述書を作成していない企業は、客観的で合理的な評価基準を設定しているとは言い難い。従って、整理解雇という意思決定は、違法性を指摘されるリスクがあると考えた方がよい。
ラインマネージャーは、部下から「使えない上司」と酷評されることも多い。とくにIT業界においては、エンジニアとして入社し、技術を磨き経験を積んで、その結果、「不本意ながら」マネージャーになった人も少なくないようだ。そのため、人材管理という仕事に興味を持てず、人材管理の重要性に気づいていない人も案外多い。
どんな経緯があるにせよ、結果的に「嫌々ながら」マネージャーを務めていては、部下から「マネージャーとしての仕事をやっていない」と批判されてしまうのも仕方ない。ラインマネージャーには、部下が目指すべきゴールを設定し、育て、能力を発揮させ、評価するというサイクルを回していく、企業経営において極めて重要な役割がある。
最近、はたから見ていて、実にもったいない人材を次々と切り捨てている企業がある。「人は城、人は石垣、人は堀」 (武田信玄) なのだが、あなたの会社は大丈夫だろうか。
この特集「景気回復に備える! 人的資源活用の基礎」では、大不況時代を乗り越え、ビジネスの復活・再興を目指すにあたり、企業の宝である「人材」を見つめ直し、いかに活用していくかについて考えていこう。
次回は、人材活用の最前線で重要な役割を果たす、ラインマネージャーの役割について見ていく。「マネージャーなんか、なりたくない」という方も、企業の中で仕事を続ける限り、いつかは避けて通れないポジションになるものだ。そのときの基礎知識として、お付き合いいただければ思う。