また、人材育成の共通のゴールイメージとしての「あるべき人材像」を定義しているかどうかについても調べている。前年の調査結果と比較して、あるべき人材像を定義、共有している企業の割合はあまり増えておらず、「人材育成のストーリーづくり」が進展していないことが分かったという。
あるべき人材像が定義されていないと、人材育成が重要な人事施策と連携できないため、非効率で文脈のない育成計画になりがちだ、と同社は指摘している。
重要度とは裏腹に優先順位は低い「人材育成」
次に、領域2の「人材育成サイクル」において、人材育成にはどのような仕組みがあり、会社全体および各部署で、どのように運用しているかを尋ねている。
多くの企業が、自社の標準的なキャリアパスに従って、階層別研修等のカリキュラムを整備したり、全社員の共通スキルとして研修を実施したりしている、と回答しており、また各部署においてはOJT(On the Job Training)や現場に則した研修を実施している企業も少なくないことが分かった。
ただ、「育成課題ごとに研修体系を構築してはいない」と答えた企業が37.7%あり、また「あるべき人材像」に向けて、社員個々のキャリアプランの立案、評価を実施していない、と答えた企業が49.1%もあった。
これについて同社は、実施できていない上位の理由として、「人材育成の全体像が描けていない」こと、もう1つが「仕組みや部署間の整合性が確保できない」こと、さらに「人材育成そのものの優先順位が低い」ことがあるとした。
全体を示すモデルがなければ、各論が進まないのは当然である。
さて、領域3の「人材育成の実施」については、社員に対し中期(3年程度)のキャリアプランから短期(年間)学習計画までの詳細な計画の立案を求めているか聞いており、「キャリアプランの立案」「キャリアプランの実現に向けた具体的な自己成長課題の特定」「自己成長課題の解決に向けた学習計画の立案」の3項目について調べている。
その結果、いずれの項目とも「人材開発部門としては必要性を感じているが、立案を求めていない」との回答が半数以上を占め、キャリアプランの策定に対する必要性を強く感じつつも、硬直している状況だと指摘している。
また、研修においてキーマンとなるのは「現場の上長」だが、上司を人材育成や研修に巻き込むために、どのような施策を実施しているかについても調べている。ここでは、実施されている施策を「仕組みによる巻き込み」と「人事部門の直接的な働きかけによる巻き込み」に分類して比較し、その結果、仕組みによる上司の巻き込みが進んでいないことが分かった。
同社は、「人事部が全社の人材育成の全責任を持ち、人事部だけで人材育成を実施していくという状況ではなくなってきている」と指摘した。市場価値は目まぐるしく変化し、市場ニーズ、育成ニーズも日増しに高まっている。もはや、すべてに人事部だけで対応するのは困難である。
そこで、会社として全体感のある人材育成の戦略モデルのようなものを、人事部を中心に現場の上司を巻き込みながらつくるべきだ、と指摘した。