最近のLinuxの大きな変化として、「多くの組み込み系の人たちが、カーネル開発モデルに参加していること」と、Torvalds氏はいう。組み込みLinux開発への挑戦は、最近始まったものではないが、今やその重要度は、ますますはっきりしてきたという。
そして「私個人としては、こうした状況にワクワクしています。それは、新しい利用形態で、私にも予想がつかないような、今までにない面白い形での展開になるでしょう。そして、Linuxの組み込み領域での利用は、日本の中で大いに推進されています」と語った。
デバイスは、より多くの機能を統合する反面、端末はより小さくなってきている。つまり、小さなデバイスに対して、より多くの機能が求められ、要件として複雑なネットワークに対するスタックの対応が必要になってきている。
「クラウド対応OS」としてのLinux
さらに重要なことは、クラウドコンピューティングの影響だ。従来であればOSなど必要なかった領域にまでOSが使われるようになってきたのだ。今では、テレビやカメラもコンピュータを内蔵している。こうした複雑性と領域の拡大に対応するためには、堅牢でありながら、十分に柔軟性のあるOSが求められる。
今、クラウドに対応するOSとして、組み込み領域でLinuxが広く利用されていることは、いかにLinuxが柔軟性のあるOSであるかを示しているという。
「私の希望としては、Linuxの開発モデルの循環が組み込みの中でも活用されることです。かつて、それぞれの組み込み系企業が、別々に開発し合って継続性がないなど、開発モデルの点でLinuxとのミスマッチが存在していたのは事実です。しかし、今、組み込みの世界では、Linuxを使うことへの関心が高まっています。それはLinux自身の進化にも関連しています。今後は、さらに我々と一緒に協力して開発する体制が整えばいいと考えています」(Torvalds氏)
そして、そのためには、組み込みが通常のカーネル開発のプロセスと深く関わっていくことだと語った。シンポジウムに先立ち、東京で開催されたカーネル・サミットでも、組み込み系の開発者とカーネル開発者が意見交換する場が設けられた。
そしてTorvalds氏は「今後、10年、15年の後のテクノロジがどうなるかはわかりません。しかし、そこでLinuxが大きな役割を果たしていくこと、そしてイノベーションは予期しないところから起こってくること、またLinuxをより広く普及させることによって、それを実現することができることを私は確信しています」と語った。