まずは、日本や米国の会計基準が「ルール(条文)主義」を採用して非常に詳細な数値基準が決められているのに対して、IFRSは「プリンシプル(原理原則)主義」を採用している。
IFRSはまさに原理原則主義に基づいており、詳細なルールを設定していない。そのため企業はその原則を独自に解釈し、企業独自の詳細なルールを作成の上で会計処理を行う必要がある。つまり、原理原則に基づき自分の会社のビジネスをどのように表現すべきなのかを自ら考え、また、それを監査法人に説明、理解してもらい、かつその一部分を注記情報として開示して、株主、投資家をはじめとしたマーケットの人にも理解してもらう作業が必要になる。
従来のルール主義では、いわば“お上”が決めたことに従っていればよかった、またルールに明記されていないことはやってよいという風潮があった。しかしIFRSでは原理原則に基づき、「この取引はこのように処理すべき」ということを自ら考え、説明する義務がある。
次に、IFRSは損益計算書(P/L)より貸借対照表(B/S)が重視されている点が挙げられる。これまでは一定期間の活動成果である純利益重視(P/L重視)、つまり過去の情報をつまびらかにし投資家に説明、投資家はその開示情報を元に、その企業の体質や強さ、過去の成績を評価するという考えが一般的だった。
しかし、多極化が進み刻一刻と経済状況が変化する中で、企業は投資家や債権者からは企業価値評価の基礎情報が求められており、それらの情報を貸借対照表上で表現しようとしているのがIFRSである。現在のようにドラスティックに状況が様変わりする中では、必ずしも過去の延長線上に将来があるわけではない。そのため、IFRSでは将来に対して経営者がどのような見通しを持ち、その妥当性を監査法人の承認のもとでいかに表現するかという考え方が強くなっている。
このような考え方の変更により、P/Lはある時点のB/Sと別の時点のB/Sの間の企業の資産、さらには負債の変動を表すものであると位置付けられている。つまり変動結果はすべてP/Lの中で表現するという考え方であるが、それにより「包括利益」という従来の純利益重視の中ではとらえられなかった、より広範囲な項目も表現できるようになる。
最後に、「国内基準からグローバル基準へ」という流れが挙げられる。
日本の会計基準は、税法や規制当局との擦り合わせなど、日本独自の事情を加味した上で策定されている。しかし新たなグローバル基準であるIFRSは、国際会計基準団体がその基準を決定するため、当然日本固有の慣習や事情とは別の次元で基準が決まっていくことになる。企業はこのような会計基準が決められるプロセスをモニタしておくことが大切であり、同時にIFRSと国内の税務の間に乖離が生じる可能性もあり、これにも注意を払わなければならない。
IFRSに対する各国の対応、そして日本
IFRSはすでに世界100カ国以上で採用されており、先進国の中では日本と米国を除いてほとんどの国が採用、あるいは今後の採用を決定しているという状況であり、これらの国も遅くとも2011年または2012年までに採用を開始するといわれている。
これに対し、日本政府は2012年に現在の会計基準をIFRSに置き換えるかを最終判断、正式に上場企業に強制適用を開始するのは2015年から2016年と見られている。
この日本のIFRS対応の遅れが問題になっている。つまり、国内市場ではIFRSは喫緊の課題ではないものの、グローバル市場で事業を展開している企業、また今後グローバル展開を予定している企業にとっては、IFRS対応は極めて重要な課題だ。グローバル競争に勝ち残るためにも、今の内からIFRS採用への準備を進めることが大切だ。