企業コンピューティングにおけるサーバおよびストレージの世界では、仮想化が当たり前のテクノロジになりつつある。一方、デスクトップの世界では仮想化はまだ当たり前という状況にまでは至っていない。しかし、今後急速な普及が期待される。調査会社のIDC Japanによれば、国内のクライアント仮想化ソリューションの市場規模は2009年時点で1265億円であり、2013年までには年間平均成長率27.5%で拡大し、3770億円となると予測されている。
この急成長の理由は、サーバやストレージにおける仮想化の場合と同様だ。つまり、ハードウェアの価格性能比の急速な向上が続く一方で、PCの管理が企業の大きな負担となっているからだ。個人ベースでPCを管理するだけでも、ソフトウェアのアップグレードにウイルス定義のアップデート、データのバックアップなど相当の負担がかかることは誰もが知っている。企業内で数千台から数万台規模のPCを管理する負担は膨大となることが容易にわかる。PCにおいては、ハードウェアやソフトウェアなどの目に見えるコストは総合保有コスト(TCO)の約30%を占めるに過ぎず、残りの70%は維持管理のための人件費であるとされてきた。おそらく、今日においては人件費の比率がさらに高まっていると考えて良いだろう。
デスクトップ仮想化のカテゴリー
デスクトップの世界における仮想化は大きく以下の2つのカテゴリーに分けられる。
- 1台のデスクトップマシン上で複数の仮想マシンを稼働するテクノロジ
- デスクトップの機能をサーバ上で実行するテクノロジ
両者は、ソフトウェアに対して仮想的なハードウェア資源を見せることでメリットを得るという点では共通しているが(ゆえに、両者に対して仮想化という言葉が使用される)、テクノロジとしては特性がかなり異なる。「デスクトップ仮想化」という言葉を使う時には、上記の2カテゴリーのどちらの意味で(あるいは両方を包含して)使っているのかを明確化しておくことが重要だろう。
1.のカテゴリーは、サーバ仮想化と同様の機能をPC上で実現することだ。製品例としては、マイクロソフトの「Virtual PC」、ヴイエムウェアの「VMware Workstation」、Parallelsが提供するMac OS X向けの「Parallels Desktop」などがある。これらのテクノロジを採用することで、異なる複数のOSや同じOSの複数バージョンを1台のマシンで同時に稼働できるようになり、様々なメリットを得られる。
2.のカテゴリーは、シンクライアントと呼ばれることも多い。また、アプリケーション処理の大部分がサーバで行なわれることからサーバベースコンピューティング(SBC)と呼ばれることもある。さらに、ソフトウェアの表示機能を別マシン上で稼働させることから、プレゼンテーション仮想化と呼ばれることもある。実現方式は様々だが、アプリケーションの実行やデータ保存の機能をサーバ側に集中でき、クライアントは実質的にユーザーインターフェース機能だけをつかさどることになる点は共通している。これによる管理負荷削減効果はきわめて大きい。
次回以降は、カテゴリー2のテクノロジを中心にもう少し深掘りして書いていくことにしよう。