「工業化」によりIT運用コストを削減できる
IBMではクラウドを、ITサービスデリバリモデルの「工業化」として捉える。電話会社の自動交換機や製造業のロボット、銀行のATMなどと同じだ。
「クラウドは、一般のインターネットサービスに影響を受けた“利用”と“提供(デリバリ)”の新しいモデル。仮想化と標準化、そして自動化の3つの技術要素によって実現されている」(三崎氏)
クラウドは仮想化によって、サーバ統合やストレージ統合を行うことでコストを削減する。ただ、エンドユーザーにとっては、利用している環境が専用環境か仮想環境かは関心事ではない。そこに標準化(ITIL v.3のサービスカタログの実装)と自動化の技術によってセルフサービスの仕組みを入れることによって、はじめてリアルタイムになり、ユーザーにとっての利便性が向上する。「標準化と自動化が加わることで、IT運用費用の更なる削減が可能だ」と三崎氏は話す。
IBMではクラウドの価値を次のように5つに整理する。
このうち、4つ目の「ITガバナンスとセキュリティの強化」については、クラウドの二面性がポイントとなる。
三崎氏は、ユーザー部門が勝手にパブリッククラウドを使用し始めると前出の海外金融機関のようにITガバナンスの崩壊につながるが、RC2のようなプライベートクラウドにすると、従来プロジェクトチームごと、あるいは部門ごとに持っていたITリソースを、すべてプールして、IT部門の管理下に置くことができる。そのため、ガバナンスやセキュリティの強化につながる、と説明する。
2つ目のITリソースのリアルタイム化による「ビジネススピードの向上」については、ソフトウェアの開発環境をクラウド化した企業の事例が興味深い。その企業ではクラウド導入前は、開発およびテスト環境用のサーバの調達と導入に、最低で2カ月間もかかっていたが、必要なリソースをすべてプールすることより、1〜3時間で提供できるようになったという。その結果、クラウド化に必要な一次費用を6カ月で回収したそうだ。やはり時間短縮の効果は大きい。
上図のように、ユーザーのリソース要求がIT部門に届いて、環境を構築して提供するまでに、5日間程度はかかるのが一般的だろう。クラウドを導入すると、ユーザーはウェブでリソースをリクエストすると自動的にプロビジョニングされて、わずか5分でサーバ環境を使用できるようになる。従来の1週間待ちと比較すると、ほとんどリアルタイムに近い感覚だろう。
しかし、通常はその前提となるインフラのクラウド化、つまりクラウドの導入自体に時間とコストがかかる。IBMでは、そうしたコストの低減と導入時間の削減を実現する提案も行っている。クラウドアプライアンス製品である「IBM CloudBurst」である。
CloudBurstでは、サーバ、ストレージ、ネットワークスイッチと仮想化、標準化、自動化のソフトウェアをオールインワンで提供する。設置から数日でクラウド環境の実現が可能であるという。つまり、IBM CloudBurstはプライベートクラウドの導入自体をリアルタイム化するアプローチとも言えるだろう。