公平で有望なソフトウェア市場を確信できる世界を作るために--BSA海賊版対策シニアディレクターに聞く - (page 2)

聞き手:柴田克己(編集部)、構成:富永康信(ロビンソン)

2010-02-15 16:10

「法」に関する3つの問題

-ビジネスがグローバル化、フラット化していく現在、それぞれの国で著作権などの法的な整備状況には格差もあると思われます。そうした状況の中で、BSAとしてはどのような問題に直面していますか。

 法的整備に関しては3つの問題が存在します。1つはリソースの問題です。ご指摘の通り、著作権保護に関しては各国がそれぞれ法律を持っていますが、法執行機関は著作権に関する取り締まり以外にもさまざまな責務を担っており、著作権管理に費やせる時間や資源は限られているのが現状です。法的な措置が問題を解決するレベルにまで達していないというのが我々の分析です。

 2つ目は訴追レベルの問題。担当する検察官は著作権違反以外にも窃盗や殺人なども担当し、専門性が必ずしも十分に高くないことが多くの国で共通の障害となっています。

 そして3つ目は裁判手続き上の問題です。提訴されてから判決が出るまで何年もの時間がかかっているケースが多く、法律は脅威ではなくなりつつあります。そうなると、提訴を支援する我々の活動の理由も失われてしまうのです。

-国によって、ユーザーのモラルにも差があるのではないですか。

*** 「ソフトウェアが高価だからコピーしてしまうという行動は全く正当化できない」と訴えるBSAのTarun Sawney氏

 おっしゃる通り。モラルというより、「知的財産に対する態度」と表現してもいいでしょう。今まで、違法ソフトウェアを使って摘発された企業の経営者と交渉する機会が何度もありましたが、彼らは大抵、「知的財産権は理解しているが、自分の会社で不正が行われているとは知らなかった」「正規のソフトウェアが高価なのでコピーをしてしまった」などといいます。

 しかし、企業は毎月、テナント費や光熱費などを支払っています。彼らのビジネスが存続し、競争優位性を保っていられるのは、それらの支払いを行っているからではなく、ソフトウェアによって生産性が維持されているからです。それなのに、経費のわずか4~5%を占めるだけの合法的なソフトウェア費用を高すぎると批判し、違法コピーに走ってしまう。漁師が漁を続けるために他人の漁網を無断で利用すると同様に、その態度や行動は全く正当化することができません。

ネットオークションで海賊版を入手するトラブルが増加

-不正ソフトウェアを利用する企業の中には、違法という認識がないまま、海賊版ソフトウェアを利用しているケースも多いのではないでしょうか。

 企業レベルでの不正利用に関して、例えば海賊版ソフトウェアを正規品だと信じてダウンロードしたというケースは、アジア太平洋地域では1件もありません。しかし、違法ソフトウェアの被害もボーダレスになっており、オークションサイトで正規品と偽った出品者から海賊版を入手するケースがアジア全域で問題となり、その一部が摘発されています。BSAとしてはそのような問題の存在を、セミナーやウェブサイトを通じて告知しているところです。

-アジアの各国には、現在日本企業も多く進出していますが、そうした中にBSAが関与した案件はありますか?

 日本企業の現地子会社でライセンスを受けていないソフトウェアを利用するケースは確かにあります。中国で2社、マレーシアでも2社、タイでは2009年だけでも6社にアクションを取りました。

 ただ、その数は年々減少しており、それぞれの国で著作権関連の法律を遵守する傾向にあるといえるでしょう。中でも、タイではJETRO(日本貿易振興機構)が進出企業に対してさまざまな啓蒙活動を行っており、その効果が出始めているようです。

 しかし、楽観視できるかといえば、答えはノーです。タイの6社はみな、利用しているソフトウェアのすべてが違法なもので、コンプライアンスが全く機能していなかったのです。世界でも日本人は法令遵守意識の高い国民として知られ、海賊版の使用率も最も低い国のひとつとなっているせいか、海外で海賊版を利用している事実には大変驚きます。

 日本企業は、現地の社員も日本人同様、正規品を利用しているだろうと思い込んでいますが、現実は異なります。そのため、海外展開する企業は、現地の経営幹部が常にソフトウェアの利用状況をチェックし、従業員に対して不正コピーを行わないような啓蒙活動を行うことが必要でしょう。

-今後、BSAがアジア太平洋地域で行う教育啓発についての重点ポイントとはなんでしょうか。

 BSAでは違法ソフトウェアの利用に関し、内部関係者からの通報を受け付ける窓口も用意してそれなりの効果を上げていますが、本来ならば経営層が率先してソフトウェア利用のコンプライアンスを高めていくことが理想だと考えています。

 そのため、各国の企業に対し合法的なソフトウェアの利用を促すキャンペーンやセミナーを開催する一方で、各国政府とも協調しながら著作権保護の重要性を働きかける活動を継続していくつもりです。

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