早ければ2015年にも日本国内での強制適用が始まるとされる国際会計基準(IFRS)。欧州連合(EU)圏では2005年から強制適用が始まっているが、欧州企業の経験を踏まえていうとIFRS適用で大きな問題の一つとなるのは、固定資産をいかに管理すべきかということだ。
米Oracleで統合基幹業務システム(ERP)「Oracle E-Business Suite(EBS)」や「JD Edwards EnterpriseOne」に含まれる財務管理機能の開発を担当するSeamus Moran氏が来日し、日本オラクルがこのほど開催した説明会で、そうした認識を示している。
“資産のコンポーネント化”という課題
土地や建物などの有形固定資産の認識時期や取得時の測定は、日本とIFRSではほぼ同様といわれる。というのは、この4月から始まる会計年度から「資産除去債務」の報告が義務付けられるからだ。資産除去債務は、法令や契約で除去が決められているものについて、撤去費用を事前に負債として計上するというものだ。
有形固定資産は、そのほとんどが年月を経ることで、その価値が下がっていく。たとえば機械が正しく活用され、その機械で製品を製造し続けられる年数にわたって、機械の購入価額を徐々に費用として認識する必要がある。ここで、機械が製品を製造し続けられる年数を“耐用年数”、機械の購入価額を徐々に費用として認識するのが“減価償却”という。
有形固定資産の減価償却は、日本基準(J-GAAP)とIFRSでは理論的な考え方はほぼ同様と見られている。だが、J-GAAPでは会計上も税法に基づく減価償却が実質的に認められているのに対して、IFRSの場合、税法に基づく減価償却はそれだけでは認められないという点で大きく異なる。
このため、IFRSを適用した際には、海外子会社を含め、会計用と税務用に二重の台帳を作成、維持する必要が出てくる可能性がある。有形固定資産の会計処理では、減価償却が大きな影響を与えるだろうと見られている。
またIFRSでの有形固定資産の取り扱い方が異なる点として「コンポーネントアカウンティング」が挙げられる。これは、有形固定資産を構成要素ごとに取得原価を分けて、それぞれに固有の残存価額や耐用年数、減価償却方法を適用するという考え方だ。
たとえば航空機を取得した際には、機体とエンジン、座席などに分けて会計処理する必要がある。また、大規模な検査や交換が予定されている資産は、本体部分と取り換える部分を分けて会計処理して、検査や交換する時点で取替資産の取得と除却の会計処理をするというものだ。
Moran氏によれば、有形固定資産を構成要素ごとに測定、評価するという“資産のコンポーネント化”が欧州企業にとって多くの業務課題になったという。ERPに含まれる資産管理モジュールを活用していれば、固定資産の把握も比較的対応しやすいだろうが、「ERPを使っていない企業は、手作業で固定資産の把握に対応しなければならない」(Moran氏)からだ。
資産のコンポーネント化という課題はまた、どうやってIFRSに移行していくかという問題だけにとどまらない。むしろIFRS適用後で企業の財務を大きく変えてしまうというビジネスとしての課題として認識されることになる。固定資産の評価結果によっては、財務状況が変わってしまうからだ。IFRSが企業経営を大きく変えるといわれるのは、こうしたことがあるからだ。
欧州企業の経験を踏まえてMoran氏は「固定資産という課題は、米企業でも発生するだろう」と警告している。課題への対応策としては「できるだけ早期にコンポーネント化のポリシーを策定すべき」(Moran氏)と助言する。その際には「監査法人と相談すること」(Moran氏)が重要としている。もちろん固定資産の把握では、「電子的に作業すべき」(Moran氏)とも助言する。