3月2日、米VMwareの社長兼CEOであるPaul Maritz氏が来日し、都内のホテルで記者会見を行った。
サーバ集約からクラウドコンピューティングへの流れの中で、長らく仮想化フレームワークの提供に取り組んできたVMwareへの注目は高まる一方だ。Maritz氏は、同社の2009年の売上高が20億ドル超、営業利益率が24%に達したことに言及。合わせて「全世界の仮想化環境におけるアプリケーションの89%はVMware上で稼働している」とし、17万社を越える企業ユーザーがVMware製品を導入しているとした。
日本での導入事例としては、キリングループ、NTTコムウェア、三菱東京UFJ銀行の名前を挙げつつ、「こうした実績は、VMwareだけで成し遂げられるものではない。テクノロジ、コンサルティング、サービス提供の各パートナーの支援によるもの」と述べた。
Maritz氏によれば、VMwareの仮想化ビジネスは「VMware Workstation」による個々のマシン内での仮想化からはじまり、次に「VMware ESX」によるサーバ仮想化、さらに「VMware Infrastructure」による仮想リソースプールへと進化してきたとする。そして現在提供している「VMware vSphere」は「真の意味でのデータセンタ仮想化プラットフォーム」であるとする。2010年においては、「完全な自動化を果たすことにより、プライベートクラウド、そしてパブリッククラウドの分野に注力する」と今後の方針を語った。
「どこにあるか」だけでなく「どう提供されるか」
Maritz氏はクラウドコンピューティングについて「オンデマンドで、自動化して提供されるサービスであり、仮想インフラの効率的なリソースプールを活用するコンピューティングのスタイル」であると定義する。「リソースがどこにあるのかだけでなく、どのように提供されるかが重要」(Maritz氏)という。
さらに、企業にとってはインターネット上の「パブリッククラウド」と、企業が自社内で仮想化技術によってオンデマンドでサービスを提供する「プライベートクラウド」だけでなく、それらを組み合わせて使う「ハイブリッドクラウド」の存在が今後重要になってくるとする。Maritz氏は、「ハイブリッドクラウドの環境において、プライベートとパブリックの境目がシームレスになるような仕組みのイネーブラーとなることに、VMwareは注力していく。これは企業のエンドユーザーにとっても、IT部門にとってもメリットになる」とする。
Maritz氏は企業ユーザーに対して、仮想化技術の導入にあたり「段階的なアプローチを勧めている」という。初期の段階では、1台のマシン上で複数のアプリケーションを動かすマシンの仮想化、次の段階ではサーバの仮想化、さらに複数の物理的な資源を仮想的に集約したリソースプールからサービスとしてIT提供する段階へと進んでいく。企業のクライアントPC環境を、リソースプール上からオンデマンドで配布する「デスクトップ仮想化」が実現するのもこの段階だ。「仮想化環境」と「プライベートクラウド」との決定的な違いは、この段階において「仮想インフラの効率的なプールやポリシーベースの自動化が行われているかどうか」にあると、Maritz氏は言う。VMwareの優位性は、この部分にあるというわけだ。
一方で、クラウド上でサービスを提供したいと考えるプロバイダーに向けた開発フレームワークの提供にも乗り出している。Maritz氏は「アプリケーションを開発するにあたって、プラットフォームごとに開発をするケースは少なくなった。ウェブ向けのアプリケーション開発が中心になっており、新しいPHPやRubyといった言語にも対応する必要がある。仮想アプライアンスによるコアITサービスを提供するのに合わせて、昨年買収した、SpringSourceのオープンな開発フレームワークにより、クラウド分野での開発を加速する」とする。
VMwareは2010年1月にも、オープンソースのコラボーレションソフトウェアを提供するZimbraを買収している。Maritz氏は「Zimbraの買収も、クラウド上にアプリケーションを容易に展開できるようにするための構成要素のひとつ」とする。「メールやコラボレーションは、最も基本的なアプリケーションコンポーネントだと考えており、Zimbraは展開と管理の容易さを提供する選択肢のひとつに過ぎない。我々はイネーブラーであり、SaaSレベルでのサービスプロバイダーになるつもりはない」と述べ、あくまでもパートナーとのエコシステムの中で、テクノロジを提供することに集中するという方針を明言した。
「ITの歴史を見ると、メインフレームの世界ではIBM、クライアント/サーバの世界ではIntelとMicrosoft、ウェブの世界ではGoogleとAmazonといった形でリーダーが移り変わってきた。来る“クラウドの世界”ではVMwareがそうしたリーダーの1社でありたいと思っている」(Maritz氏)