プログラミング学習にクラウドを活用する東京工科大
続いて登壇した東京工科大学教授の田胡氏は「東京工科大学における授業クラウド構築の試み」について解説した。
同学は1986年に創立され、2010年度からはコンピュータサイエンス、メディア、応用生物など5学部体制となっている。1学年あたりの人数は1500人を超えているという。田胡氏の所属するコンピュータサイエンス学部では、2009年初頭から大学の授業をクラウド化する「Lcloud(Lecture Cloud)プロジェクト」を開始し、「OSSクラウドサービス・センター」を開設した。
日本IBMとの共同開発が始まったのは2009年4月からだ。このプロジェクトの目的は、ウェブブラウザだけを用いたプログラミング学習を可能にすることで、利点としては「学生側の負担軽減」「実習環境の簡素化する」「教員による実習進捗状況の把握」などが挙げられるという。IBMでは、IT技術者の育成促進を目的とした、学生のITスキル向上支援プログラム「IBMアカデミック・イニシアティブ」を実施しており、今回の同プロジェクトへの支援は、その一環だ。
今回のプロジェクトでは、IBMの次世代サービス基盤である、「WebSphere sMash」を活用している。WebSphere sMashは、サービスごとに独立して動作するウェブサーバ(zero)と、ウェブ向けプログラミング環境(App Builder)で構成される。ハードとしては、「IBM BladeCenter LS21」「IBM System x3650」などを採用した。
Lcloudは基本的に、WebSphere sMashを多数並べ、PaaS(Platform as a Service)を構築するという構造になっている。エンドユーザーの要求を受けつけ機能を割り当てる機能を担う「ポートマッパー」と呼ばれるシステムを開発、WebSphere sMashによるポータルを設置して、学生がクラウドを利用する環境を整えた。開発には2人の学生も参加したという。
実証講義は、2009年10月6日から2010年1月12日まで、コンピュータサイエンス学部の3年次生を対象に全12回にわたり実施された。科目は「情報系プログラミングII」で、40人が受講した。学生は、ブラウザとして「Firefox 3.0」以上がインストールされたノートパソコンを持参し、プログラミング実習環境としてLcloudを使用。PHPプログラミング 、JavaScriptプログラミングとAjax、SQLプログラミングなどを学んだほか、アプリケーションの自由開発にも取り組んだという。
田胡氏は「諸々のトラブルもあったが、何とかやり遂げた。学生たちは、普段の講義よりは楽しかったようで、かなり頑張り、さまざまなアプリケーションが作られた。実際に作業をしながらの授業で、フィードバックがある分やりがいもあったのではないか。手ごたえはあった」と語り、「クラウドを利用したこのような授業で習得できるのは技術だけでない。学生も開発、企画に参加することで、どうすれば、使いやすく、見やすいか、なども考えることができ、真の実学といえるのではないだろうか。技術オタクではなく、視野の広い人材を育成することにもなる」として、今後Lcloudをさらに拡充、発展させていく意向を示した。