一つは、選択肢が増えすぎて自分で組み合わせを選ぶのが面倒になったからかもしれない。もう一つは、提供されたプラットフォームがあまりに素晴らしいので、進んで囲い込まれることを選んでいるからかもしれない。
恐らく、エンタープライズ領域では一つ目、つまり組み合わせることに関わるコストとリスクを抑えることが説得力を持つ理由の一つとなるだろう。しかし、コンシューマー領域、ことAppleに関しては二つ目の理由が正しいだろう。
提供されたプラットフォームがあまりに素晴らしいので、そこに存在するネガティブな側面を無視してでも囲い込まれてみたくなるのである。その時、デリバリーのプラットフォームを握るという重要な選択をAppleが下した事実は重要である。もしこれがなければ、Appleは今でも一部の熱狂的なファンのためだけの機器にとどまっていたに違いない。
しかし、Appleという企業自体が一個人の能力に強く依存するというリスクは、その企業の提供するサービスそのものもリスクに晒しているという事実は認識しておく必要があるだろう。
Appleが提供するサービスは、一つの機器にとどまらず、一つのプラットフォームである。それ故に、Appleの浮沈はそのプラットフォームに関連するあらゆる資産に及ぶのである。

筆者紹介
飯田哲夫(Tetsuo Iida)
電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。