もともとITの世界はドッグイヤーあるいはマウスイヤーとも言われ、技術の変化が激しい業界でもある。そうしたスピードに今後もついて行けるかどうか不安を抱えるのも当然といえば当然だろう。加えて、2008年9月のリーマンショック以後、日本を含む世界経済は「New Normal(新たな常態)」とも言われ、常に不安定な状況にあると指摘されている。
ただでさえ不安を感じる技術者が、そうした経済の不安定さから自分の将来により不安を感じるのも無理はない(しかし、こうした不安はIT技術者に限ったことではないかもしれない、20〜30代であれば業界に関係なく感じる不安ではないかとも想像できる)。
調査では、所属する会社のビジョンの有無と、発展性を実感できるかどうかの相関関係を調べている(図4)。その調査結果からは、会社のビジョンが明確な企業の従業員ほど企業の発展、成長に期待しているということも明らかになっている。経済状態が不安定でも、企業のビジョンが明確であれば、所属する個人はそのビジョンに安心感を抱くと表現できるのかもしれない。
個人として「IT関連産業は将来も社会に必要不可欠な産業であることを理解」(田中氏)しながらも、所属する企業の方向性や将来ビジョンが見えないことから「自身のキャリアについて見通しを立てにくくなっている」ことや「個人の自己成長について企業への依存度が高い」ことなどが見えてくるという。そうした現状を踏まえて田中氏は「IT企業は、自社の方向性や将来ビジョンを明確に伝え、技術者たちが産業や企業の将来に魅力を感じて、誇りを持って生き生きと働ける環境を創りだすことが重要」と主張している。
ユーザーに依然として残る「質」と「量」の不足感
今回のIT人材白書の全体像について田中氏は「さまざまな変化の兆しが見て取れる。潮目が変わりつつあると言ってもいい」と説明している。その一つがIT人材の需給バランスが質的に変化しているという状況だ。
IT人材の需給バランスは、前回の白書からその予兆が見られたというが、今回明らかに「量的な不足感の後退が顕在化、一部の企業では反対に過剰感が強まっている」(田中氏)。事実、システムインテグレーター(SIer)を中心としたベンダー企業、いわば供給側の人材不足感が大きく後退していることが鮮明になっている(図5)。
量的な不足感はなくなりつつあるとしても、質的な不足感はそれほど変わっていないということも調査で明らかになっている。田中氏が繰り返し指摘しているように、ここにも景気低迷の影響を見ることができるだろう。つまり、2008年9月以前のように景気が活況の時ほど仕事が多くはないことから、それほど量的な不足感を感じなくなっていると指摘できる。だが、質的な不足感がそれほど変わっていないというのは、ベンダーに入ってくる仕事の多い少ないにかかわらず、質的な不足感が構造的な問題であるということの証左とも言い表せるだろう。